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サラセミア疑い例の診断方法は?

No.4940 (2018年12月29日発行) P.58

服部幸夫 (済生会山口総合病院検査部検体検査管理部長)

登録日: 2018-12-27

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14歳,日本人男性。学校健診で軽度の貧血を指摘され,精査目的で来院。自覚症状はなし。初診の検査(表1)で鉄欠乏性貧血が疑われたため,鉄剤を投与したところ貧血は改善し(Hb 13.1g/dL),TIBC,血清鉄,フェリチンいずれも正常化しましたが,著しく小球性の赤血球のままでした。αサラセミアを疑っていますが,臨床診断の方法をご教示下さい。もしαサラセミアであるとするならば,今後注意すべきことについて。

(愛知県 N)


【回答】

【Mentzer index(MCV/RBC),HbA2などより推測し,グロビン遺伝子検査の異常にて確診する】

サラセミアと鉄欠乏性貧血は,ともに小球性の貧血をきたすということで,鑑別が重要です1)。サラセミアは先天的なものですが,鉄欠乏性貧血は後天性のものです。頻度的には,βサラセミアは一般大衆の1000人に1人,αサラセミアはその2500人に1人程度でみられますので,決して稀なものではありません。特に,東南アジア出身者ではこの頻度が高く,その診療では常にサラセミアの存在を念頭に置いておくことが重要です2)

また子どもでは,サラセミアが基礎にあり,それに鉄欠乏性貧血を合併している場合があります。鉄欠乏性貧血は原則として,鉄剤に反応しますが,サラセミアでは反応しません。そのため,サラセミアはしばしば「鉄剤に反応しない鉄欠乏性貧血」として発見されます。

ヘモグロビン(Hb)はα,βグロビン鎖2分子ずつからなる四量体(α2β2)ですが,βサラセミアでは遺伝的にβグロビンの産生に欠陥があり,Hbの形成が少なくなります。その分,血球中のHbの量が減り,小球性赤血球となります。αサラセミアでも同様です。産生量が極端に減ると,会合にあずからなかった正常側グロビンが増え,これらが変性して赤血球膜に障害を与え,溶血性貧血を呈します3)。溶血を呈さない程度の場合は,貧血はないか,あっても軽度にとどまります。これを軽症型サラセミアと言っており,わが国でみられるサラセミアの多くが,このタイプです3)

お問い合わせの症例は,明らかに鉄欠乏状態を呈しています。貧血はごく軽度ですので,まだ鉄剤の摂取が十分ではないと考えられます。しかし,赤血球数が500万/μLを超えています。図1のように,鉄欠乏性貧血でこれを超えるものは少数です。一方,サラセミアでは,血球が小さい分を赤血球増多で補い,貧血を軽減化しています2)。そのために,サラセミアでの貧血は比較的軽度にとどまります。血球が小さく(低MCV),赤血球数が多い(高RBC)というサラセミアの特徴を利用して,Mentzer index(MCV/RBC)を計算すると,サラセミアでは13以下,鉄欠乏性貧血では13以上を示すことが多いので,これも臨床の現場で役に立ちます2)。本例では10.8となりますので,サラセミアが強く疑われます。

βサラセミアでは,βグロビンの産生が悪い一方で,βグロビンと並んで産生されるδグロビンでは産生障害はありませんので,相対的に過剰となります。つまり,HbA2(α2δ2)は軽度の増加となります。αサラセミアでは,HbA2は低下傾向を示し,またBCB染色で,しばしば,HbH(β4)が赤血球内封入体として認められます。本症例では,HbA2が4%(基準値:2.5~3.5%)と軽度上昇しておりますので,αサラセミアよりβサラセミアの可能性が高いと思われます。

このように,臨床検査上で,ある程度は推測することができますが,確定診断はグロビン遺伝子の異常を明らかにすることです。現在,福山臨床検査センターでサラセミアを含めた血色素異常症のスクリーニングおよび遺伝子検査を行っています4)。同社ウェブサイトのトップページの「血色素異常の遺伝子検査」という項目から入っていくと依頼法の詳細がわかります。保険適用外ですが,どんな診療所からも依頼できますし,専門のドクターによる結果の解釈も添付されてきます。

軽症型サラセミア(主にヘテロ接合体)では,Hbレベルは11.4g/dL(平均値)前後で日常生活に支障ありませんが,妊娠や感染症罹患時には貧血が著しくなる症例があるようです。一方,ヘテロ接合体同士の婚姻でホモ接合体が生じると,一生,定期的輸血と鉄キレート療法が必要となる場合(重症型サラセミア)がありますので,自分がヘテロ接合体であるか否かの把握は大変重要です1)

【文献】

1) 服部幸夫, 他:最新ガイドライン準拠 血液疾患 診断・治療指針. 金倉 譲, 編. 中山書店, 2015, p192-5.

2) 山城安啓, 他:血液診療エキスパート 貧血. 金倉 譲, 監. 中外医学社, 2010, p23-39.

3) 服部幸夫:Med Pract. 2016;33(9):1377-80.

4) 福山臨床検査センター.
[https://www.fmlabo.com/]

【回答者】

服部幸夫 済生会山口総合病院検査部検体検査管理部長

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