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がんの分野における健康格差の実態把握とその縮小に向けて[提言]

No.4937 (2018年12月08日発行) P.24

大島 明 (大阪国際がんセンターがん対策センター特別研究員)

登録日: 2018-12-05

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  • 〔要旨〕がんの分野における健康格差に関する先行研究として,大阪府がん登録のデータを用いて地理的剝奪指標の5分位グループ別にがん生存率を分析した研究があるが,今後これを継続発展させて,生存率と罹患率の剝奪ギャップの推移を調べる必要がある。一方,がん生存率格差縮小の対策として,がん検診の受診率の向上に向けたコール・リコールの徹底があり,がん罹患率格差縮小の対策としては,たばこ税・価格の大幅引き上げが考えられるが,その成果は生存率と罹患率の剝奪ギャップの縮小の有無でモニターすることができる。

    1 英国と米国におけるがん分野の健康格差に関するデータ

    BMJ 2018年3月14日号に掲載されたExarchakou論文1)は,英国における剝奪指標の5分位グループ別に,がん患者の1年生存率の1996~2013年の推移を調べた研究である。その結果として,生存率は着実に改善しつつあるが,剝奪ギャップ(最も剝奪指標の高い貧困グループと最も剝奪指標の低い富裕グループとの間の差)は前立腺がん,子宮頸がん,子宮体がんなどで縮小したものの,ほかの多くの部位で不変(男性の脳腫瘍,女性の肺がんでは拡大)であったことを示した。英国では,2000年のNHS Cancer Planでがん分野の健康格差の縮小を目標に掲げたが,がん生存率に関しては思うような成果が上がっていないこととなる。Cancer Research UKのサイトには,小地域(lower layer super output areas:LSOAs,人口約1500人)の剝奪指標の5分位グループ別のがん生存率の推移のほか,罹患率,死亡率の推移のデータも示されている。

    一方,米国では,建国以来の歴史的経緯から,人種・民族グループ(白人,黒人,ヒスパニック,アジア・太平洋諸島系など)別にがん登録データが集計され,Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)Programのサイトに示されていて,これにより社会経済格差によるがん罹患率,死亡率,生存率の格差を推定することができる。

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