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血栓症マーカー [今日の新しい臨床検査─選び方・使い方(10)]

No.4778 (2015年11月21日発行) P.38

監修: 前川真人 (浜松医科大学医学部臨床検査医学教授)

和田英夫 (三重大学大学院医学系研究科検査医学准教授)

松本剛史 (三重大学病院輸血部副部長)

青田卓実 (永井病院内科部長)

山下芳樹 (三重大学血液・腫瘍内科)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-08

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  • 1. 血栓症とは

    血栓症には,大きい静脈の血栓症である深部静脈血栓症,肺塞栓症(PE),脳静脈洞血栓症,門脈血栓症,腸間膜静脈血栓症などを含む静脈血栓塞栓症(VTE),微小血管内に微小血栓が多発する播種性血管内凝固症候群(DIC)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS),非定型溶血性尿毒症症候群を含む血栓性微小血管障害症(TMA),動脈系の血栓症である急性心筋梗塞(AMI)や心原性脳梗塞以外の脳梗塞などがある。原因からは,抗リン脂質抗体症候群(APS)やヘパリン起因性血小板減少症(HIT)などが分類される。これらをバイオマーカーで早期に診断できれば,健康の維持,患者の生活の質の改善ならびに医療費の削減に役立つと考えられる(図1)。

    2. 血栓症を疑うマーカー

    凝固系が活性化されてトロンビンが生成されると,プロトロンビン・フラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2:F1+2)やトロンビン─アンチトロンビンⅢ(AT)複合体(TAT)が増加する。トロンビンによりフィブリンが生成されると,可溶性フィブリンモノマー複合体(soluble fibrinmonomer complex:SFMC)となる。フィブリンが形成されて重合し,プラスミンにより分解されるとD-dimerやフィブリノゲンならびにフィブリン分解産物(FDP)が増加する。プラスミンが大量に生成されると,プラスミン─α2プラスミンインヒビター複合体(PPIC)が生成される(図2)。F1+2,TATならびに可溶性フィブリン(SF)の増加のみの場合,過凝固状態で大きな血栓症は存在しないこともある。FDP,D-dimerならびにPPICが増加すると,何らかの血栓症が存在していることになる。敗血症などでATが低下していると,TATの増加は抑制される。敗血症などで線溶系が抑制されていると,FDPやD-dimerの増加は少ない。D-dimerなどのバイオマーカーはDICやTMAならびにVTEでは増加するが,AMIやその他の動脈血栓症では増加しないか,軽度の増加のみである。しかし,トロポニンIやTならびにCPK-MBなどの心筋マーカーが増加することにより,AMIの早期診断が可能である。一方,心原性脳梗塞以外の脳梗塞や閉塞性動脈硬化症は画像撮影や生理検査により診断され,血液検査で診断するのは困難である。すなわち,血小板活性化や動脈硬化を示唆する,有効なバイオマーカーはいまだ開発されていない。

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