Jikei Heart StudyやKyoto Heart Studyの不正発覚に端を発した高血圧治療薬,バルサルタン(ディオバンR)に関する一連の論文不正問題は,ノバルティスファーマ社元社員が薬事法違反で逮捕されるという異例の刑事事件にまで発展し,今後の真相は司法の手にゆだねられることになった。その後,千葉大学,東京慈恵会医科大学,名古屋大学は,最終調査結果を相次いで発表したが,新事実の判明とともに新たな疑惑も浮上している。
千葉大学当局においては,海外雑誌に掲載されたVART試験のサブ解析論文の撤回を要請し,受理された。厚労省検討委員会での消極的な姿勢から一転,アカデミアとしての強い姿勢をみせた形である。しかし,サブ解析論文が撤回されたにもかかわらず,主要論文を掲載した日本高血圧学会は何ら対応を示しておらず,千葉大学は研究責任者の移転先である東京大学にも処分の検討を要請したが,現時点では対応がみられない。
また,東京慈恵会医科大学も調査の結果,血圧値のみでなく,エンドポイント発生数にもカルテとの重大な齟齬があったことを公表した。特に研究責任者自身のレポートに,バルサルタン群に極端に有利になるようなエンドポイント発生数があったことが判明し,あらためてPROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)法以前の作為的行為の疑惑が否定しきれない状況となってきた。
さらに,NAGOYA HEART Studyにも新たな疑惑が発生している。論文では心不全発症について,バルサルタン群3例,アムロジピン群15例という大きな差があったとしていた。しかし,先頃の外部調査によると,バルサルタン群が有利になるように,対照群アムロジピン群での発症数が少なくとも4例水増しされていたことが判明した。名古屋大学の学内調査では,主要結果に問題はなかったとの結果が発表されているが,その信憑性が大きく薄れてきた。
一連のディオバン問題の真相究明は,裁判の結果にゆだねられるが,今後の日本での臨床研究の信頼性回復と再発防止は喫緊の課題である。
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