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COVID-19罹患後症状(Long COVID)の診断・治療・日常生活のアドバイス─ME/CFSの診療経験から学ぶ[学術論文]

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  • 4. プライマリ・ケア医に望まれる対応

    冒頭の症例の経過を振り返りながら,プライマリ・ケア医に向けた論文19)と筆者らの経験を参考に,PCC(疑い)患者が“かかりつけ医”を受診したときに望まれる対応を考えてみたい。

    第一には,冒頭の症例のように患者の話をよく聴かずに検査だけをして「異常はありません」という対応をしないことである。

    次に,COVID-19罹患後4週間前後までの時点でいくつかの症候が残っている場合,約2/3の患者は12週間後までには回復が期待できることを説明する5)19)。この時期を過ぎたような患者の場合は,6カ月後ぐらいまでは「玉ねぎの皮を1枚1枚剥くように」徐々に症候は回復していくことを説明して,納得が得られるようなら,前述の対処法を参考にフォローしてよい。その後も回復が思わしくない場合に,いわゆる「コロナ後遺症外来」を紹介しても遅くはない。もちろん社会活動(学生生活や会社勤務)を中断せざるをえないほどの心身の不調がある場合にはこの限りではなく,「コロナ後遺症外来」を直ちに受診したほうがよいだろう。

    最初の症例に戻って考えてみる。少し病歴を聴けばPCC(疑い)患者であることが察せられる。そこで12週までの自然軽快の可能性を説明して,患者・家族の不安に対処しながら対症療法で経過をみていてもよかったと思われる。対“証”療法が有効であったかどうかは不明である。自然経過でよくなっていたのかもしれない。そして活動レベルの上げ方に注意して,1〜2週ごとに経過をみていってもよかったと思われる。活動レベルの上げ方の配慮(ペーシング)はきわめて重要で,この点でもME/CFS患者の診療経験が生きている。

    5. 日本におけるPCC診療の現状と課題

    前述のように,PCC患者の対応には多数の専門医や専門職種が関わることになるケースが多い。そのような場合には,その診療に責任を持つ医師(主治医)が重要であり,その主治医が必要に応じてそれぞれの症候に対処するのに適した専門家にコンサルテーションをしながら診療するような体制が望ましい。多彩な症候を呈するPCC患者で,プライマリ・ケア医が最初の3~6カ月間ほどフォローして十分な改善が得られないような場合は,様々な専門外来を有する総合病院で総合診療専門医が症候の交通整理を行うような体制(いわゆる「コロナ後遺症外来」)での診療が望ましいと思われる8)

    現在,日本でもPCCの病態解明に向けた研究は始まっており,様々な身体合併症に対する治療指針も出されている20)。その指針の中では各種の症候に対するアプローチ法は記載されているが,最も頻度の高い症状である「全身倦怠感」に対しては示されていない。病態が解明されるまでは特異的な治療法がないのは事実であるが,MUS(medically unexplained symptoms)としての対応を考えることは可能である21)。PCC患者もこのような対応の対象とし,患者や家族がそれぞれの症候の診療にふさわしいと思われる専門医を求めてさまようような状態は是非とも避けたい。

    6. おわりに─今,喫緊の課題として求められていること

    現在,PCC(疑い)の患者を門前払いするケースや,PCCとME/CFSを直結したり,混同したりする情報も少なくない。重要なのは隠れている治療可能な病態・疾患を見逃さないようにしつつ,患者・家族にデータに基づくPCCの自然経過を説明し,可能な範囲内での対症療法をしながら伴走することである。それでも改善しない場合には「コロナ後遺症外来」に紹介するような流れが望ましいと思われる。

    現在,筆者らが担当している施設(愛知医科大学メディカルセンター)でも「コロナ後遺症外来」は,最長2カ月待ちの状態である。病態解明への研究補助のみならず,診療窓口設置のための予算措置が是非とも必要であることを強調して稿を終えたい。

    【文献】

    1)Komaroff AL, et al:Front Med. 2021;7:606824.

    2)伴 信太郎, 他:医事新報. 2021;5094;52-5.

    3)WHO:A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus.
    https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-Post_COVID-19_condition-Clinical_case_definition-2021.1

    4)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(別冊)罹患後症状のマネジメント暫定版. 2021.

    5)Shah W, et al:BMJ. 2021;372:n136.

    6)Carfi A, et al:JAMA. 2020;324(6):603-5.

    7)Logue JK, et al:JAMA Netw Open. 2021;4(2):e210830.

    8)Otsuka Y, et al:Cureus. 2021;13(10):e18568.

    9)Korompoki E, et al:J Infect. 2021;83(1):1-16.

    10)Choutka J, et al:Nat Med. 2022;28(5):911-23.

    11)Ahamed J, et al:J Clin Invest. 2022;132(15):e161167.

    12)Wang EY, et al:Nature. 2021;595(7866):283-8.

    13)Su Y, et al:Cell. 2022;185(5):881-95.

    14)佐藤元紀, 他:8.集学的治療. 専門医が教える 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き.倉恒弘彦, 他, 編. 日本医事新報社, 2019, p66-76.

    15)伴 信太郎:5.診断法(臨床診断基準と研究用診断基準). 専門医が教える 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き.倉恒弘彦, 他, 編. 日本医事新報社, 2019, p35-47.

    16)藤江里衣子, 他:日疲労会誌. 2012;7(2):36-41.

    17)CFS支援ネットワーク, 編:療養生活の手引き ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群). CFS(慢性疲労症候群)支援ネットワーク, 2021.

    18)Al-Aly Z, et al:Nature. 2021;594(7862):259-64.

    19)Greenhalgh T, et al:BMJ. 2022;378:e072117.

    20)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き(別冊)罹患後症状のマネジメント第2.0版. 2022.

    21)片岡仁美, 他:総合診療. 2022;32(11):1296-368.

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