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コロナ下の解剖事情(2)[提言]

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  • 3 ご遺体からの感染

    ご遺体からの感染について,厚労省は2020年7月,医療関係者,葬儀事業者を対象に「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置,搬送,葬儀,火葬等に関するガイドライン」を作成した。その中で,飛沫感染の恐れはないので,接触感染に注意せよ,との指摘があった。当時,法医解剖に携わる医師等には,ワクチンの優先接種や,他の医療関係者に給付した慰労金の対象にならない例が多かった。その理由として,国会の厚生労働委員会で,田村憲久厚生労働大臣(当時)は,一般の医療従事者が感染した場合,患者が感染するリスクがあるが,解剖医の場合,対象はご遺体のため,相手にうつすことはないから(2021.03.17参・厚労委,2021.05.21衆・厚労委),という答弁をしていた。

    おそらく,厚労省は解剖従事者を医療従事者と考えてはおらず,また,死体からの感染リスクは接触以外にはないと認識していたと思われる。一方,多くの遺族はご遺体と死後の対面ができず,遺骨になってからのお別れということで,不満を残した。死体の中で,ウイルスはどれくらい生存するのか,また,それはどうやって感染する可能性があるのか,という疑問が起こり,研究対象となっていった。

    海外では,2021年秋に,低温環境であれば遺体埋葬後数カ月経ってもウイルスが残存するという論文1),また,17日間の死後間隔の後,既に腐敗の兆候が見られたにもかかわらず,COVID-19 の死体のひとつにまだ感染性が存在していた,さらには,エアロゾル感染の可能性を指摘した論文2)などが出ている。

    これらを受けて,わが国でもウイルスが条件次第で長期間安定的に生存し,ご遺体から空気の漏出があれば,感染の可能性があることが示唆された。また,その漏出を防ぐ手だてとして,エンゼルケアやエンバーミングなどの遺体修復が指摘され,他の感染対策と併せれば,遺族とご遺体の対面も可能であることが報告された3)

    当初厚労省が示したガイドラインを適宜修正し,医療関係者が葬儀業者,遺体修復者らと連携することによって,改善が図れる可能性が認められた。今回のパンデミックに対しては手遅れであろうが,次の新興感染症の流行までには一定の準備が期待される。

    4 ワクチン接種直後の死亡例

    ワクチンについては,当初より初のmRNAワクチンとのことで様々な危険性が指摘されてきた。もし副反応の結果死亡し,それが何の補償もなく放置されているとしたら問題である。

    厚労省の調査では,ワクチン接種後の死亡が2022年8月7日までに1815件あり,因果関係は評価できず,現時点で重大な懸念は認められないとしている4)。その後,「予防接種健康被害救済制度」に基づき死亡一時金の支払いを認めはじめたものの,その数は一桁にとどまっている(2022年11月7日現在)。

    2021年から,千葉大学法医学教室ではワクチン接種後当日から5日後までの死亡事案の解剖が6件あった。事件性が疑われる司法解剖ではなく,いずれもが遺族または関係者がワクチンの影響を疑い解剖となったもので,4件が調査法解剖,2件が承諾解剖だった。そのうち3件は別の死因が指摘されワクチンの影響は否定されたが,残りの3件は不詳の死とされ,ワクチン接種の影響は否定できないとの結論だった。年齢は20代,30代,50代で,いずれも基礎疾患や致死的と思われる他の解剖所見はないが,ワクチン接種が死因であると証明するための所見もなかった。しかし,特に若年層では突然死例が少ないため,ワクチン接種後の若年者の突然死例が,平時の統計と比較して多いことが示されれば,当然その関与が疑われるだろう。

    海外の研究では,かなり前からmRNAワクチンの副反応として稀に心筋炎が起こり5),アストラゼネカ社のワクチンでは血栓症がみられるとの報告がある。わが国でも,ワクチン接種後死亡事案の剖検数を増やし6),パンデミック時のみならず,平時においても,法医解剖,病理解剖の情報を共有するシステムをつくり,疫学的な検討を重ねつつ,現在の補償に至る運用,特に蓋然性に関する要件を低くし,広く死亡一時金を支払うことによって,被害者救済制度を再構築することが望ましい。

    コロナ周辺には,上記の2点にとどまらず多くの論点があるが,様々な議論を進める上で,改めて解剖の重要性,また,解剖や検査所見情報の共有の重要性を指摘したい。

    【文献】

    1)Plenzig S, et al:Int J Legal Med. 2021;135(6): 2531-6.

    2)Plenzig S, et al:Int J Legal Med. 2021;135(5): 2055-60.

    3)斉藤久子, 他:遺体における新型コロナウイルスの感染性に関する評価研究. 厚労科研2020年度終了報告書. 2021.

    4)厚生労働省:厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(2022年9月2日合同開催)資料1-8. 2022, p16.

    5)Bozkurt B, et al:Circulation. 2021;144(6):471-84.

    6)日本病理学会, 他:新型コロナウイルスワクチン接種後死亡症例の病理解剖・法医解剖を推奨します.
    https://www.pathology.or.jp/jigyou/byouri_20220725.pdf

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