膵癌の切除手術の補助療法としては術後補助化学療法が標準治療として行われ,S-1単独治療が第一選択となっている
切除不能膵癌に対する化学療法では,まずFOLFIRINOX療法とGEM+nab-PTX併用療法を第一選択として検討する。これらの適応が難しい場合は,GEM単独,GEM+エルロチニブ併用,あるいはS-1単独から適切な治療を選択する
FOLFIRINOX療法は第3相試験の結果から最も効果が高い治療であるが,骨髄抑制,悪心,倦怠感,末梢神経障害など副作用も強い。非高齢者,全身状態が良好,合併症がない,UGT1A1遺伝子多型の確認など,適切な対応が不可欠である
GEM+nab-PTX併用療法は日本人での臨床試験ではFOLFIRINOX療法にまさる成績が得られている。FOLFIRINOX療法と同様,全身状態が良好な患者に適応すべきであり,骨髄抑制と末梢神経障害への適切な対応が重要である
膵癌において根治が期待できる治療は切除手術のみであり,まず第一に切除可能か否かを判断する。しかし,実際には根治切除後も多くの場合再発を認め,切除単独治療の5年生存率は10%程度である。切除成績の改善には有効な補助療法が必須であり,術後補助療法として化学療法による無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)および全生存期間(overall survival:OS)の延長が得られている。
一方,切除手術後では合併症の発生や全身状態の悪化により,術後補助療法が困難な場合も少なからずあり,全身状態が良好な術前に強力な化学療法,あるいは化学放射線療法を行う術前補助療法に関心が集まっている。最近,切除不能膵癌に対する有効な化学療法が確立してきたことから術前補助療法の臨床試験が国内外で進められているが,不十分な術前治療では切除の機会を逸する可能性もあり,実臨床での実施は推奨されていない。また,治癒切除が難しい“borderline resectable”の概念も提唱されてきており,術前治療の確立が喫緊の課題となっている。
切除不能膵癌に対する治療は化学療法が主体となる。化学療法の進歩により,予後の改善が得られているが,副作用の発現は必発であり,時に治療関連の死亡も認められている。切除不能例における化学療法の目的は予後の延長と症状緩和であり,治癒をめざすものではない。したがって,個々の患者の状態を適切に評価し,化学療法を行うことでどの程度予後の改善が見込めるのか,重篤な副作用の発現のリスクはどうか,などリスクとベネフィットを十分勘案した後,適応を決定する必要がある。化学療法の基本的な適応基準は,全身状態が保たれている(performance status 0~2),重篤な合併症がない,主要臓器機能が保たれている,治療について十分な理解と同意が得られている,薬剤ごとの禁忌となる事項がない,である。
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