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肥満外科手術の現状[学術論文]

No.4855 (2017年05月13日発行) P.40

太田正之 (大分大学医学部消化器・小児外科准教授)

遠藤裕一 (大分大学医学部消化器・小児外科)

猪股雅史 (大分大学医学部消化器・小児外科教授)

登録日: 2017-05-12

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  • わが国における代表的な肥満外科手術は,腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG),腹腔鏡下スリーブ・バイパス術(LSGB),Roux-en-Y胃バイパス術(RYGB),調節性胃バンディング術(AGB)である。わが国は,この分野では東アジア地域の中でも遅れを取っており,保険収載されているのはLSGのみである。肥満外科手術の有効性と安全性は確立しており,糖尿病に対するLSGとバイパス手術の優劣の議論もなされている。わが国の保険上のLSGの適応は,BMI 35以上であるが,アジア人の糖尿病に対する手術(メタボリックサージェリー)の適応は,BMI 27.5以上まで拡大されてきている。

    1. 肥満外科手術の歴史と術式の種類

    1 肥満外科手術の変遷とわが国への導入

    肥満外科手術は,1950年代に小腸バイパス術として欧米で開始されたが,高率に発生する合併症が問題であった。1960年代には胃バイパス術が開発され,その後,Roux-en-Y再建となり,Roux-en-Y胃バイパス術(Roux-en-Y gastric bypass:RYGB)が確立した術式として欧米で広く施行されるようになった(図1)。
    1980年代になり,垂直遮断胃形成術や調節性胃バンディング術(adjustable gastric banding:AGB)が開発され,1990年代には肥満外科手術も腹腔鏡下手術として施行されるようになった。そして,初めての腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG)が施行されたのは,1999年であった。
    わが国では,千葉大学の川村ら1)によって1982年に肥満外科手術が導入された。それは当時,米国で広く施行されていたRYGBであった。しかし,空置される遠位側の胃癌のスクリーニングができないことから,垂直遮断胃形成術に術式が変更され,1988年に胃縮小術として保険収載された。ただし,開腹手術としての肥満外科手術は侵襲が高度であるため,当時は,一部の施設でのみ行われた。
    2000年になり,川村ら2)は腹腔鏡下肥満外科手術をわが国に導入し,Kasamaら3)とともに腹腔鏡下RYGBを施行していた。そのため,胃癌の問題が再び議論され,日本内視鏡外科学会は「重症肥満に対する外科治療に対する見解」を発表し,腹腔鏡下RYGB施行に対し警鐘を鳴らした。その後,日本人向けの糖尿病に対するバイパス手術(メタボリックサージェリー)として,2007年にKasamaら4)は腹腔鏡下スリーブ・バイパス術(laparoscopic sleeve gastrectomy with duodenojejunal bypass:LSGB)を開発している(図1)。また2005年に筆者ら5)は腹腔鏡下AGBを,Kasamaら3)はLSGをわが国に導入している。

    2 メタボリックサージェリーの概念

    メタボリックサージェリーという言葉は,1970年代に米国のBuchwaldの著書で初めて使用され,1990年代には,RYGB後に体重が減少する前に糖尿病が寛解することも認められていた。2000年代になり,RYGB後のインクレチンやグレリンなどの消化管ホルモンの変化が報告され,さらに2007年には,Diabetes Surgery Summit(DSS)が開催され6),糖尿病に対する手術としてのメタボリックサージェリーの概念と用語が急速に広がることになった。
    現在,わが国で行われている代表的な肥満外科手術を図1に示す。腹腔鏡下AGBとLSGは,摂食量を抑制する術式に分類され,腹腔鏡下RYGBとLSGBは,摂食量と消化吸収能を抑制する術式に分類される。

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