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日本人の乳房エンベロープを考慮したインプラント再建の適応【日本人女性に適合する製品が非常に少ないため適応の制限がある】

No.4790 (2016年02月13日発行) P.60

草野太郎 (昭和大学医学部形成外科)

登録日: 2016-02-13

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

日本女性の乳癌罹患率の上昇およびブレストインプラントの保険適用によって,インプラントを用いた乳房再建の患者数が各施設で増加しています。しかし,患者の乳房エンベロープの形態や質によっては,自家組織を用いた再建に比べ,自然な形態を再建しにくく感じることがあります。日本人女性の特徴として,比較的小さめな乳房サイズや皮下脂肪の薄さ,胸郭の薄さを感じます。
日本人女性の標準的な乳房形態や質を考慮した場合のインプラント再建の適応について,昭和大学・草野太郎先生のご教示をお願いします。
【質問者】
矢野智之:横浜市立みなと赤十字病院形成外科副部長

【A】

当科では,乳癌患者の術前後の状態について,3Dスキャンを用い計測やシミュレーションを行うことで「日本人の乳房形態」を研究しています。
そこからみえてきた形態の特徴を一部挙げると,平均値は横径14.6cm,プロジェクション(突出)4.1cm,高さ14.5cm,ボリューム247mLという結果が得られており,ボリュームとともにプロジェクションが小さい「薄い」乳房と言えます。
公表されている正確なデータはありませんが,一般的にアジア人より乳房が大きいであろう欧米人のためにつくられた工業製品であるシリコンインプラントは,形状もボリュームも日本人向きではないと考えています。
現時点で保険適用になっているインプラントのラインナップは,特にプロジェクションが大きいものが多く,上記平均値の4.1cmから皮弁の厚みを引くことを考えると,日本人にマッチする製品があまりに少ないことがわかります。
プロジェクションに相関する乳房のボリュームについて,わかりやすく例を挙げます。保険適用内で使用可能な最小ボリュームのアナトミカルタイプのシリコンインプラントのボリュームは125
mLです。私たちの研究において,インプラント至適容量(mL)=計測乳房体積×0.9であるという見解が得られています。つまり,最も小さいインプラントを選ぶ場合の乳房体積は125mL×1/0.9≒139mLとなります。
ちなみに当科で計測した患者110人中乳房体積が139mL以下の方は30人でした。すなわち,4人に1人以上においては,最も小さいインプラントでも左右対称な再建が難しくなる可能性があるということです。
人工物による再建は工業製品の形状によるにもかかわらず,「ラインナップが少ないことによる適応の制限」があると考えられます。私たちはエイジングによる乳房形態の変化も研究していますが,現状では年齢まで視野に入れた工業製品がないことも事実です。工業製品の充実,もしくはそもそも小さい人工物を使用することの是非については検討が必要です。
私は,胸の小さい患者の場合,脂肪移植など自家組織による再建の選択についても説明しています。健側の豊胸を希望する方もいらっしゃいますし,患者とよく相談し,その方のライフスタイルに合わせたプランニングをすることが重要ではないかと思います。

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