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過去の災害踏まえた事前の備えを [お茶の水だより]

No.4741 (2015年03月07日発行) P.11

登録日: 2015-03-07

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▼「この世は何でも起こりうる 何でも起こりうるんだわ きっと どんなひどいことも どんなうつくしいことも」。1989年に発表された漫画家・岡崎京子の代表作『pink』に登場する印象的なモノローグだ。「ひどいこと」には、まもなく発生から4年が経過する東日本大震災が該当するかもしれない。あるいは阪神・淡路大震災が当てはまるかもしれない。
▼今年で阪神・淡路大震災の発生から20年、新潟県中越地震の発生から11年になる。特に阪神・淡路大震災は社会に大きなインパクトを与え、災害医療だけでなく、医療体制全体の見直しを全国の医療関係者に迫るものだった。阪神・淡路大震災の特徴は、死亡の原因の大半を倒壊した家屋などの下敷きになったことによる窒息や圧死が占め、即死がほとんどだったことだ。
▼一方、東日本大震災は津波の被害が大きく、高齢化が進んだ地域での災害対策の脆弱性を浮かび上がらせた。福島第一原子力発電所事故の収束は遠い。患者に個別性があるように災害にも個別性がある。阪神・淡路大震災の翌月に弊誌が掲載した緊急ルポでは、「どんなに命令系統のしっかりしたシステムにも限界がある」「最終的にたよりになるのは地域レベルでの人と人との助け合いだと素直に認める必要もある」と伝えている。続く6月の災害医療の特集でも、神戸大精神神経科教授(当時)の中井久夫氏が「災害が始まってしまったら、すべては状況。状況の中で何が最善かという判断ができなければならない」との言葉を寄せている。
▼この世に起こりうる「ひどいこと」の最たるものが災害なら、「うつくしいこと」はいずれの震災でも、自ら被災しながらも往診鞄一つで避難所の診療に当たった地元医師がいたこと、全国から医療支援チームが駆けつけたことだろう。現在も東日本大震災の被災地で地域医療を守るため奮闘する医師や、医療支援を継続する医師がいる。
▼今号では東日本大震災で課題となった、支援チーム同士の連携や引き継ぎなど災害医療支援の「つなぎ方」に焦点を当てた特集を組み、災害急性期、亜急性期、慢性期にそれぞれ支援を行った先生方のお話を伺った。地震が起きるたびに異なる対応が求められる一方で、これまでの災害を踏まえ、次の震災に向けて事前に備えておくべきことも多い。そうした備えを十分行うことが、東日本大震災で亡くなった方の供養にもなるのではないか。

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