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【識者の眼】「パンデミックの海で⑭─現代楢山節考(下)」櫻井 滋

No.5216 (2024年04月13日発行) P.61

櫻井 滋 (東八幡平病院危機管理担当顧問、日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会 副委員長)

登録日: 2024-03-25

最終更新日: 2024-03-25

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が第6波(2022年1〜6月)、第7波(同年6〜10月)と流行を繰り返すうちに、既感染率が上昇し、免疫を有する者が増加するはずであった。しかし、人々の予防意識の高まりや将来予測への疑念が逆効果を生んだのか、ウイルスの変異のゆえか、想定通りの集団免疫獲得に至らなかったように見える。

変異のたびにウイルスはその毒性を弱めたにもかかわらず、免疫的に脆弱な高齢者を中心に感染は広がり、感染した高齢者が犠牲になることになった。異例の速さで開発されたワクチンを投入したにもかかわらず、である。

医療機関内の感染者は、相互に感染源とはなりえないはずの慢性臥床状態の高齢者が多く、この事実は媒介者の多くが職員、特に直接ケアを行うスタッフであることを意味した。

その状況はまさにくだんのクルーズ船内と同じである。つまり、外部との接触を抑制して患者を隔離してもなお、エッセンシャルワーカー間で感染が拡がることになったのである。弱毒のウイルスは症状が軽微であるがゆえに感染者の行動を抑制しない。つまり感染者は媒介者であり続ける。もはや行動制限を以前の状態に戻したところで、蔓延状態を抑制することは困難であっただろう。さらに経済的影響が無視できない状況に立ち至った世界は、次々に感染対策を打ち切る措置をとったのである。

歴史的にも、病原体撲滅をもってパンデミックの終息が宣言されるわけではなく、パンデミックはやがて局地的流行(エンデミック)となり、流行は限られた地域で繰り返し散発することになるだろう。すなわち、流行期や流行地においては従来通りの感染対策を実施し、流行が抑制された時点では感染対策を緩和するという、結核やインフルエンザ等に行われてきた基本対策を受け入れざるをえない。

もっともインフルエンザは特効薬とも言えるノイラミニダーゼ阻害薬が開発され、今や院内感染が生じても比較的容易に制御することが可能となっている。したがってCOVID-19も、介護福祉施設内や医療機関内での流行が薬剤等によって制御できる状況にならない限り、国内のすべての場所で感染対策を解除するという状況にはならないと推定される。軽微な感染症でもその患者数が膨大になれば、社会生活に甚大な影響をもたらすからである。結局のところ、集団感染症の制御とは治療ではなく、予防に尽きるのである。

このことは大多数の医療関連感染の病原体に共通することであり、それゆえに休むことなく院内感染対策が行われてきたのである。たとえ市中の様子が見慣れた風景に戻ったとしても、新たな流行や新たな病原体への対処が終わることはないだろう。

特に今後、多くの医療機関に義務化され拡充される感染症対応は、やがて介護福祉施設とその職員にまでその範囲を広げるであろう。さもなければ、そこは現代における楢山節考の世界となってしまうことになる。(続く) 

櫻井 滋(東八幡平病院危機管理担当顧問、日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会 副委員長)[エンデミック時の感染症対策]

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