高病原性鳥インフルエンザウイルスA(highly pathogenic avian influenza virus:HPAIV)H5N1〔以下,HPAIV(H5N1)〕は,1997年に香港で生鳥市場を介したヒトへの感染事例が初めて報告されて以降,2003年,2004年には東アジア,東南アジアでもヒト感染例が報告されました。これ以降,世界各地の家禽や野鳥に感染が拡がりを示しました。その後HA遺伝子の変異が蓄積し,Cladeごとにさらに細かな亜系統に分類されるようになりました。
2021年以降は,Clade 2.3.4.4bに属するHPAIV(H5N1)の世界的な感染拡大に伴い,海棲哺乳類を含む野生の哺乳類や農場のミンクなどでも感染例の報告があり,散発的なヒト感染例も世界各所で報告されているほか,Clade 2.3.2.1cに属するHPAIV(H5N1)の局地的なヒト感染例も報告されています1)。
ヒトにおけるHPAIV(H5N1)感染事例は,2003年から2023年3月3日時点までに東南アジアを中心に報告されていますが,その他の地域でも報告されています。
世界保健機関(WHO)に報告された感染者数は合計873例で,少なくとも458例(52%)が死亡しています。このうち,2019年までの報告が861例(うち死亡455例)と多くを占め,2020年以降の報告数は大きく減少しています。
また,2023年3月29日にチリで初めてのHPAIV(H5N1)のヒト感染事例が報告されました1)。
HPAIV(H5N1)の治療として,普通の季節性インフルエンザと同様にノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル,ザナミビル)などの抗ウイルス薬投与が行われますが,オセルタミビルに対する耐性株の出現が報告されているため,投与後のモニタリングが重要です。
・HPAIV(H5N1)は,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)で定める二類感染症の「特定鳥インフルエンザ」のひとつとして政令で指定されており,医師はHPAIV(H5N1)の患者または無症状病原体保有者を診断したときは,感染症法第12条に基づき症例を届け出ることとなっています。届出を受けた都道府県知事等は感染症法第15条に基づき,積極的疫学調査を実施します。
・これまで国内で明らかなヒト感染例の報告はなく,ヒトへの感染性が高くなったという証拠はないことから,鳥類への曝露機会がない人々への感染リスクは低い一方,国内でも鳥類でのHPAIV(H5N1)検出事例の報告が過去最多となっており,生きた鳥類や鳥類の死骸に不用意に近づかないように注意すべきです。
・また,国内でも限定的ながら哺乳類での検出事例の報告があることから,哺乳類の死骸にも不用意に近づかないように注意すべきです1)。
【参考文献】
1) 国立感染症研究所:高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応. (2023年4月19日).