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【識者の眼】「楽しい旅行に出かける前に」勝田友博

No.5169 (2023年05月20日発行) P.61

勝田友博 (聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)

登録日: 2023-05-09

最終更新日: 2023-05-09

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国内においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が感染症法上5類へ移行されることとなり、筆者の周りでも、これまで約3年間自粛してきた家族や友人との旅行を計画する人が増えている。一方、最近は市中で外国人観光客に出会う機会も明らかに増加している。

そのような中で、先日UNICEFが公開した「世界子供白書2023」1)に非常に気になる記載があった。白書によると、世界では2019〜21年にかけて、約6700万人の子どもたちがワクチンを接種する機会を逸したとされている。UNICEFは、世界的な予防接種率低下の理由として、パンデミックに対する不安、ソーシャルメディアなどを介した誤解を招く情報へのアクセス増加、専門家に対する信頼の低下、政治的二極化などにより、ワクチン忌避(vaccine hesitancy)が発生しやすくなっている可能性を指摘している。

接種機会を失った子どもたちが住む国は、アフリカや東南アジアなど医療資源の供給が不安定な国が多くを占めているが、わが国も決して他人事ではない。例えば2020年においては98.5%であった国内の麻しん風しん混合(MR)ワクチン第1期接種率は、2021年に93.5%まで低下した。わずか5%の減少ではあるが、空気感染疾患である麻疹の集団免疫閾値(ある集団において感染症が伝播するのを防ぐのに必要となる免疫を持つ人の割合)は92〜94%とされており、インバウンドが急激に増加している現状からも、今後、国内において麻疹が再流行する可能性は十分ある。

わが国は、COVID-19流行以前からワクチンに対する信頼性が最も低い国として知られており2)、さらにCOVID-19流行後、ワクチンの重要性を認識する割合が30%以上低下し、54%に留まっている1)。ワクチンの「ありがたみ」を実感することは難しく、一方で有害事象による経験は強烈に認識されやすい。私たちはこの3年間、COVID-19ばかりを恐れてきたが、今後は、その他の感染症の流行にも備えなければならない。さらに、執筆時点(2023年4月下旬)では人流の増加に伴い、COVID-19患者報告数も再度増加傾向を示している。旅行の計画をするのはとても楽しいものだが、是非、ワクチンの計画を練る時間も少しだけ確保していただきたい。勿論、旅行に行かない方も然りである。

【文献】

1)United Nations International Children’s Emergency Fund(UNICEF):The State of the World’s Children 2023..
https://www.unicef.org/media/108161/file/SOWC-2023-full-report-English.pdf

2)de Figueiredo A, et al:Lancet. 2020;396(10255):898-908.

勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[新型コロナウイルス感染症][ワクチン忌避]

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