株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「白いガラケーの女」関なおみ

No.5169 (2023年05月20日発行) P.63

関なおみ (東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)

登録日: 2023-05-08

最終更新日: 2023-05-08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2020年に英国王室がコロナ禍のステイホーム用に公表したブックリスト1)にも入っている「赤いモレスキンの女」2)は、たまたま拾ったモレスキン(MOLESKINE®)の手帳に書かれた内容をもとに、持ち主を探し求めるロマンチックな恋愛小説である。

感染症対策課長の公用携帯を含む、保健所の業務用携帯が、やっとフューチャーフォン(ガラケー)からスマートフォン(スマホ)へ契約変更されることとなった。これにあたり、機種本体に登録されていた電話番号をスマホへ移す作業が必要となった。

前任の感染症対策課長が発着信のたびに電話帳登録した200件近い番号を、改めて五十音順に見ていくと、東京都医療機関情報サービス(ひまわり)の電話番号だけでなく、各種相談窓口の保健所専用連絡番号、区内外の医療機関代表番号や夜間直通番号、訪問診療・オンライン診療・休日夜間診療実施医療機関の番号、区医師会員の診療所や個人携帯の番号、庁内関係部署職員の連絡番号、近隣自治体担当の緊急連絡番号、都感染症対策部・厚生労働省・検疫所・警察等の担当者直通番号、数々の民間救急会社の連絡番号、そして様々な救急隊の連絡番号だった。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生初期はありとあらゆる連絡が保健所に集中し、時間外は入院調整を含め感染症対策課長がほぼ1人で対応していたのかと思うと、本当に胸が痛む。

もしこのガラケーを落とした場合、拾った人が登録されている電話番号を見たら、持ち主についてどんな想像をするだろうか。何か非常に危機的で、見てはいけないものを見てしまったような気分になって、無言でそっと警察に届けることであろう。

5類定点化で患者対応の主体は医療機関へとバトンが渡されることになる一方、保健所の継続的な関わりが期待されていることは重々承知している。とはいえ、保健所の体制整備はこの3年間で進んだものの、保健所の数自体は増えていないし、特措法に基づく対策本部が解散すれば、応援体制も縮小される。

また、保健所が24時間365日対応する機関として改変されたわけではなく、土日祝の日中は常勤職員や民間委託職員が輪番制で出勤しながら対応していて、夜間を含む緊急連絡先は管理職携帯になっていることに変わりはない。

しばらくは東京都の入院調整本部や夜間入院調整窓口も継続することとなっているが、その中で、今後新しいスマホにはどのような着信が入るのだろう。

「赤いモレスキンの女」のようなロマンスは求めていないが、連携、分担は求めたい。

【文献】

1)The Queen’s Reading Room.
https://royalreadingroom.uk/

2)アントワーヌ・ローラン:赤いモレスキンの女(新潮クレスト・ブックス). 吉田洋之訳, 新潮社, 2020年.
https://www.shinchosha.co.jp/book/590170/

関なおみ(東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)[休日夜間対応][入院調整][COVID-19]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top