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【識者の眼】「地域医療維持を模索する」杉村和朗

No.5166 (2023年04月29日発行) P.64

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-04-14

最終更新日: 2023-04-14

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卒後10年目から12年間を島根医大で勤務した。県東の出雲市にある大学から医師を派遣していた西端の津和野市まで、片側一車線の9号線を車で走行し4時間かかった。山間には人口1万人足らずの町が散在し、隠岐島も医療圏に含まれており、その診療に携わる中で地域医療を維持する困難さ、重要さを肌身に感じていた。その後神戸大に異動して間もなく、新医師臨床研修制度が開始され、医師不足による地域医療の問題がクローズアップされた。

最初に問題になったのが、神戸市のベッドタウンで、車で1時間足らずの三木市(8万人)と小野市(5万人)にある市民病院であった。住民はアクセスが良い場所に一流の病院があることを望んできたが、医師をはじめとする医療スタッフの流出によって、いずれの病院も魅力ある病院ではなかった。住民、医療提供側、行政各々で譲れるところ、力を入れるところを整理した。周辺に中小の自治体病院、公的病院があったので、統合病院設立とそれに伴う役割分担と連携を呼びかけたが、2病院以外は独自路線を選択した。

どちらかの市に設立するため、両市の市長は病院がなくなるのではと戦々恐々であったが、住民の意向を聞くと、良い病院が設立されるなら市内になくても了承するという結果であった。大学としては、医師派遣をはじめ様々なサポートを約束し、最先端の中核病院に指導医、多くの研修医が集まった。統合病院発足後1年半で予定通り100床増床して450床の病院が完成したが、その後も高い稼働率で推移している。

統合病院ができて間もなく10年が経つ。多くの問題点が解決したが、新たに問題が生じている。わが国ではベッド当たりの医師数、看護師数が欧米に比べて非常に少ないため、多くの病院で医師は勿論のこと、看護師、薬剤師等の不足が著しい。設立した統合病院でも、看護師をはじめ医療スタッフの不足が深刻になり、病院機能が低下していきている。また都市近郊では交通網が発達してきたため、この地域でも車で30分程度の場所に中核病院が3つある状況になっている。今後の人口減少によって、医療従事者も少なくなることが予測されている。また働き方改革を進めるためには人員の補充も必要となる。

人口減少を考えると今の病院数、規模を維持しながら病院運営を行うことは大変難しい。兵庫県では、この10年で11の病院統合、再編が進んだが、次のステップに進む必要がある。病院の均てん化が進められてきたが、今後は今まで以上に病院の垣根を取り払って、役割分担、連携を進めなければ立ちゆかない病院が増え、住民に大きな迷惑がかかる事を危惧している。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[病院の統合再編]

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