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【識者の眼】「欧米で広がる医療の位置づけの見直し」小倉和也

No.5166 (2023年04月29日発行) P.63

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2023-04-12

最終更新日: 2023-04-12

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3月30日〜4月1日までスペインのバルセロナで開催されたWorld Hospital at Home Congress1)にオンラインで参加した。欧米を中心に多くの国がコロナの3年間でオンライン診療や在宅でのモニタリング技術の進歩を常識化し、在宅での医療のあり方が大きく変わろうとしている様子が伝わってきた。

会議の名称に示されるように、全体の雰囲気としては、病院における治療中心の医療を家でもできるようにしようとする方向性が強く、病院ではなく家でこそできる生活を支える医療の意義を強調してきた日本の在宅医療の立場からの視点も合わせて考える必要があると感じた。家を病院化することではなく、家での生活と人生にどのように技術と連携で必要なケアを組み込むか、という視点も重要だろう。また、情報連携やモニタリング、オンライン診療でできることを病院の外に出すことで、改めて病院における外来・入院機能の役割も見直す必要もあるだろう。医療を生活の中で、そして人生の中でどう位置づけるかまで遡って、考えてみなければならない。

一方、年金制度改革で議論が沸騰中のフランスでは、このほど市民の議論による、終末期ケアのあり方に関する意見書がまとめられた2)。安楽死に積極的な意見が述べられるとともに、在宅でも誰もが緩和医療が受けられる環境を、との提言も盛り込まれている。望まない救急要請をしてしまった際の対応についての議論すら日本では進まない中、人生の最終段階で医療に何を求めるか、人生において医療をどのように位置付け、社会として個人の選択をどう認めていくかの議論が進んでいるようだ。

いずれの国においても、人口構成や価値観の変化、技術革新などにより社会が大きく変わる中、医療や社会保障全体のあり方が根本的に問い直されている。社会として、またそれぞれの人生の中で医療に何を求めるか、そのために地域の中で在宅ケアや病院医療がどのような形であるべきかを考えながら、今後の取り組みを進めていきたい。

【文献】

1)World Hospital at Home Congress公式サイト.
https://whahc.kenes.com

2)Convention Citoyenne Cese: Rapport de la Convention Citoyenne sur la fin de vie. AVIRIL 2023.
https://www.lecese.fr/sites/default/files/documents/CCFV/Conventioncitoyenne_findevie_Rapportfinal.pdf

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[WHAWC][在宅医療][終末期ケア]

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