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中東地域における中東呼吸器症候群(MERS)のアウトブレイク [感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(6)]

No.5149 (2022年12月31日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2022-12-28

最終更新日: 2022-12-27

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●中東呼吸器症候群(MERS)は高い致命率(CFR:約36%)を伴うウイルス性呼吸器疾患

中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)は,中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)と呼ばれるコロナウイルスによって引き起こされます。2012年に初めて報告されて以来,2022年10月31日までにWHOの全6地域の27カ国から,合計2600例の患者と935例の関連死(致命率:約36%)が報告されています。大半(2193例,約84%)がサウジアラビア王国から報告されており,854例が死亡しています1)

潜伏期間は2〜14日(中央値は5日程度)。無症状例から急性呼吸窮迫症候群をきたす重症例まであります。典型的な病像では,発熱,咳嗽等から始まり急速に肺炎を発症し,しばしば呼吸管理が必要となります。下痢などの消化器症状のほか,多臓器不全(特に腎不全)や敗血性ショックを伴う場合もあります。高齢者および糖尿病,腎不全などの基礎疾患を持つ者での重症化傾向が高くなります。現在,ワクチンや特異的な治療法はなく,支持療法が中心になります。

●MERSの主な感染対策は飛沫・接触感染対策

主な感染経路は,MERS-CoVの自然宿主であり,人獣共通感染源であるヒトコブラクダと直接または間接的に接触することです。さらに,MERS-CoVは,ヒトからヒトへは飛沫(咳やくしゃみなど)や接触などを介して感染します。これまでのところ,観察された非持続的なヒトからヒトへの感染は,濃厚接触者の間や医療現場で発生しています。医療環境以外でのヒトからヒトへの感染は限定的です1)2)

●FIFAワールドカップ2022が開催されたカタールでもMERSの報告あり

2022年11月21日から12月18日までFIFAワールドカップカタール2022が開催されました。MERSが世界で初めて報告された2012年以降,カタールでは合計28例,うち7例の死亡例(致命率:25%)が報告されています。2022年3月22日から4月3日にかけて報告された直近の2例を紹介します。 

最初の症例は,ラクダ農場で働いている50代男性です。湿性咳嗽,高熱,息切れが1週間持続したため救急外来を受診し同日入院,翌日に症状悪化のため集中治療室に移送されました。発症前14日間にヒトコブラクダと頻繁に濃厚接触し,生乳を摂取していました。

2例目は,ヒトコブラクダを所有する85歳男性です。1週間にわたる湿性咳嗽,高熱,息切れを主訴に救急外来を受診し,同日入院しましたが症状が悪化,挿管され集中治療室に移されましたが死亡しました。患者には糖尿病,高血圧,高コレステロール血症などがありました。入院の14日前にラクダを連れてサウジアラビアに旅行し,他のヒトコブラクダの飼い主を訪問していました。また,ヒトコブラクダの生乳も摂取していました3)

●まとめ

・ヒトコブラクダとの直接的な接触を避ける。

・加熱が不十分な未殺菌のラクダの乳や生肉など,不衛生な状況で調理された料理を摂食しないようにする。

【参考文献】

1) WHO:Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) - Saudi Arabia. 

2) 厚生労働省:中東呼吸器症候群(MERS)に関するQ&A. 

3) WHO:Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – Qatar. 

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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