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塩野義のコロナ治療薬「ゾコーバ」緊急承認:重症化リスク因子のない軽症・中等症患者に投与可能、審議では根強い反対意見も【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏】

No.5145 (2022年12月03日発行) P.14

登録日: 2022-11-29

最終更新日: 2022-11-29

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厚生労働省は11月22日、塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ゾコーバ錠125㎎」(一般名:エンシトレルビル フマル酸)を緊急承認した。有効性が推定された段階で承認を行う「緊急承認制度」適用第1号で、ゾコーバは軽症のCOVID-19患者も使える国産初の経口薬となった。厚労省は塩野義との購入契約に基づき100万人分のゾコーバを確保しており、28日から本格供給を開始。当面の間(2週間程度)は、都道府県が選定したパキロビッドの処方実績のある医療機関・薬局にゾコーバを配分する方針だ。

ゾコーバは、3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を抑制する1日1回、5日間投与の経口抗ウイルス薬。

これまで国内で承認されているギリアドの「ベクルリー」(レムデシビル)、MSDの「ラゲブリオ」(モルヌピラビル)、ファイザーの「パキロビッド」(ニルマトレルビル/リトナビル)が重症化リスク因子のある軽症・中等症患者を対象としているのに対し、重症化リスク因子のない軽症・中等症患者に投与できるのがゾコーバの最大の特徴だ。

症状発現から3日目までに投与開始された患者で有効性が推定されており、SARS-CoV-2による感染の症状が発現してから「72時間以内」に初回投与する必要がある。

ゾコーバは、今年7月の薬事・食品衛生審議会(薬食審)の審議で「臨床症状の改善効果が確認されていない」などを理由に緊急承認が見送られ、継続審議となった。これに対し日本感染症学会と日本化学療法学会は9月2日、両学会理事長の連名でゾコーバの早期承認を求める提言書を加藤勝信厚労相に提出。塩野義は9月28日、国際共同第2/3相試験の第3相パートで「オミクロン株に特徴的な5症状(鼻水・鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさ・発熱、倦怠感)の消失までの時間」でプラセボ群と比較して約24時間短縮し有意な症状改善効果が確認され、抗ウイルス効果も示されたとする結果速報を発表し、再審議の行方が注目されていた。

山梨大学長の島田氏「要件満たさない」

ゾコーバについてあらためて審議した11月22日の薬食審薬事分科会・医薬品第二部会の合同会議では、賛成多数で緊急承認が了承されたものの、COVID-19の5症状が快復するまでの時間がプラセボ群192.2時間(8日)に対しゾコーバ群167.9時間(7日)という臨床成績に対し厳しい意見も出された。

緊急承認に最後まで反対したのは、山梨大学長で皮膚科医の島田眞路氏。島田氏は、ファイザーやMSDの経口薬が使用できる状況であることから、ゾコーバは「他に代替手段が存在しない」という緊急承認の要件を満たさないと主張。

厚生労働省の担当官は「重症化リスクのない軽症患者に投与できるという意味でゾコーバは要件を満たしている」と説明するとともに、緊急承認制度では、他に有効な医薬品が承認されている場合でも、国産医薬品の承認申請があった場合は、供給の観点が考慮されるとの考え方を示した。

島田氏は「重症化リスクがあるとかないとかいろいろ言われるが、詭弁だ。こんな効くのか効かないのか分からないような薬を『有効性が推定される』という言葉でごまかしつつ承認に持っていくのはおかしい」と述べ、議決の際も明確に反対を表明した。


日医はコロナ後遺症への効果に期待

日本医師会常任理事の神村裕子氏は「5つの症状のほぼ自覚的な改善で有効性を認めるというのは、かなりあいまい」と述べ、有効性を示すデータとしては弱いとの見方を示しつつ、「(5つの症状よりも)もっと深刻なのは罹患後症状の長期化。罹患後症状への効果はどうなのかというデータをぜひ取ってほしい」と要望した。

同じく日医常任理事の宮川政昭氏も「(ゾコーバで)家庭内感染を防ぐことはできないと推察するが、(ゾコーバによる)ウイルス量の低下が罹患後症状に苦しんでいる方々に対して朗報かどうか、しっかりと検討していただきたい」と述べ、いわゆるコロナ後遺症への効果に期待感を示した。

36種の薬剤が併用禁忌

ゾコーバ緊急承認を受け、日本感染症学会はガイドライン(COVID-19に対する薬物治療の考え方)を改訂。ゾコーバの添付文書では「本剤の投与対象については最新のガイドラインを参考にすること」とされていることから、臨床の現場では、このガイドラインを参考に投与を判断することになる。

ガイドラインは「一般に、重症化リスク因子のない軽症例の多くは自然に改善することを念頭に、対症療法で経過を見ることができることから、エンシトレルビル等、重症化リスク因子のない軽症~中等症の患者に投与可能な症状を軽減する効果のある抗ウイルス薬については、症状を考慮した上で投与を判断すべき」としており、重症化リスク因子のない軽症患者に対しゾコーバを処方するケースがどの程度増えるかは不透明だ。

ゾコーバは高血圧や高脂血症の治療薬など複数の薬剤(36種)が併用禁忌とされており、また、動物実験でウサギの胎児に催奇形性が認められているため、ガイドラインでは「服用中のすべての薬剤を確認する」「妊婦または妊娠する可能性のある女性には投与しない」などの注意点も明記されている。

併用禁忌とされている薬剤は下記の通り。

ピモジド、キニジン硫酸塩水和物、ベプリジル塩酸塩水和物、チカグレロル、エプレレノン、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイン酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴメトリンマレイン酸塩、シンバスタチン、トリアゾラム、アナモレリン塩酸塩、イバブラジン塩酸塩、ベネトクラクス(再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期)、イブルチニブ、ブロナンセリン、ルラシドン塩酸塩、アゼルニジピン、アゼルニジピン・オルメサルタン メドキソミル、スボレキサント、タダラフィル(アドルシカ)、バルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、リファブチン、フィネレノン、リバーロキサバン、リオシグアト、アパルタミド、カルバマゼピン、エンザルタミド、ミトタン、フェニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort)含有食品

【関連情報】
日本感染症学会「COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 15 版」(2022年11月22日)
厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(ゾコーバ 錠 125mg)の医療機関及び薬局への配分について」(2022年11月22日)

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