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【識者の眼】「メンタルヘルスの現場から見た労働市場:若手弁護士の世界」岩﨑康孝

No.5137 (2022年10月08日発行) P.63

岩﨑康孝 (四谷いわさきクリニック院長)

登録日: 2022-09-28

最終更新日: 2022-09-28

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弁護士は医師としばしば比較されます。

今回は、その異同を含め、特に、若手の弁護士についてお話致します(「若手」「若い」は、ここでは経験年数が浅いという意味です)。

若い弁護士の多くは、「大量の業務を抱えて処理しきれない」「依頼者から過度の要求がある」等に起因して精神症状を訴えます。若い医師が来院する場合、上司、同僚との関係に起因する点とは異なります。

弁護士は、「人と人の争い」を処理します。理屈に加え交渉の側面が強く、本質的に困難な仕事です。医者が「人」より、「疾病」という自然現象と戦っている状況とは違います。

ところが弁護士の苦労は、この大きな構造とは別の状況にあります。

司法修習等を修了した後、弁護士の訓練に定まったものはありません。基本的にはOJT(On the Job Training)です。他の法曹(裁判官と検察官)は、「一人前扱い」されるまでの年限が法律で定まっています(裁判官は判事補から判事になるのに10年、検察官は2級から1級になるのに8年)。

つまり、若い弁護士が苦労する理由のひとつは、司法修習等の後、早期に「一人前として扱われていること」があります。上司等からの援助があっても孤独な状況に見えます。また、周囲に助けを求めるよう促しても言えない場合が多いように思います。

2つ目は、専門性。「企業法務専門」「刑事専門」「離婚専門」等の専門弁護士制度はありません。事務所ごとに専門分野が限定されていません。そのため、経験の少ない時期にもかかわらず、同時に「異なる領域の案件」を「多数抱える」状況が発生します。

弁護士の総数は4万3206人、弁護士事務所は1万7772あります。規模で見ると、弁護士10人以下の事務所が全体の75%。司法修習等の修了者が約1400人/年。約1000人(7割)が弁護士になり就職します※1。研修医の研修施設とは異なり規模等の制約はありません。小規模事務所では、かなり初期から多くを任されているのかもしれません。

若手の弁護士の転職は珍しくありません。比較的自由に転職ができる環境です。全弁護士の約半数が東京にいますが※1間いわれている「弁護士あまり」という状況は実感と異なります。

ただし、医師に比べて人数が少ないので「噂」を気にすることや、弁護士会に属す必要があるので、弁護士会を移ることを必要とする転職は心理的なハードルがあるようです。

次回は「人材派遣業の世界」についてお伝えします。


※1 日本弁護士連合会:基礎的な統計情報(2021年).

岩﨑康孝(四谷いわさきクリニック院長)[メンタルヘルス][労働市場]

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