膀胱の固有筋層が,先天的あるいは後天的な原因により部分的に菲薄化あるいは欠失することがある。この脆弱化した部位の膀胱壁が,排尿時の膀胱内圧上昇に伴いヘルニア状に外方へ突出した状態を膀胱憩室(bladder diverticulum)という。憩室壁は上皮・上皮下固有層・外膜のみで構成され,筋層は,あっても薄い。機能的な筋層を欠くため,排尿時に収縮できず,残尿量が増加する。患者の約90%は成人であるが,小児にもみられる。成人・小児とも男性に多く,男女比は9:1である。
小児症例は先天性と後天性がある。先天性は単発の憩室で男児に多い。尿管口の近傍・頭外側に発生するものはハッチ憩室と呼ばれ,膀胱尿管逆流症を伴うことが多い。胎児期での尿管芽の膀胱への接合異常が関連していると考えられている。そのほか,Ehlers-Danlos症候群,Williams症候群,Menkes症候群など結合織の異常をきたす疾患に併発するものや,後部尿道弁による膀胱内圧上昇に起因する二次性のものもある。成人例は,前立腺肥大症(最多),尿道狭窄,神経因性膀胱などの下部尿路通過障害が原因となり,そのほとんどは高齢者である。内圧の上昇により膀胱壁に肉柱形成(平滑筋の部分的肥厚)を生じ,膀胱筋層の脆弱部に大小の憩室が多発する。
憩室内に,結石や,成人では膀胱腫瘍を生じることがある。憩室腫瘍は,壁に筋層を欠くため,容易に壁外に進展し進行がんになりやすいとされる。
成人の後天性膀胱憩室の多くは無症状で,排尿困難などの下部尿路症状や尿路感染症の精査中に偶然見つかることが多い。大きな憩室の場合,二段排尿や,残尿に伴う慢性的な尿路感染で発見されることもある。一方,小児の先天性憩室は,急性の尿路感染症が診断のきっかけになることが多い。
診断には蓄尿下の超音波検査,MRI,CTが有用である。CTやMRIでは憩室の大きさや数,憩室内結石や腫瘍の有無,さらに憩室と周囲臓器との関係を確認できる。残尿は本疾患の主病態であり,残尿測定は必須である。尿沈渣で感染の有無を確認する。
尿細胞診は憩室内腫瘍の診断に有用だが,陰性でも腫瘍を否定できない。憩室内の腫瘍の確認には,膀胱鏡検査が必要である。膀胱鏡検査では下部尿路閉塞や膀胱内の肉柱形成も確認できる。神経因性膀胱による膀胱憩室では,治療方針の決定のために尿流動態検査が推奨される。
小児の先天性膀胱憩室では,排尿時膀胱尿道造影(voiding cystourethrography:VCUG)を行い,膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux:VUR)の有無を確認する。VCUGでは憩室内の残尿も確認できる。
残り1,062文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する