多職種連携は,在宅緩和ケアを円滑に行うために不可欠な要素である
在宅緩和ケアの現場は,信念対立が生じやすい
信念対立を乗り越えながら良好な多職種連携を構築していくためには,「顔の見える関係づくり」や構造構成主義の考え方を知ることが役に立つ
多職種連携は在宅緩和ケアの要である。多職種連携がうまく行えなければ,スムーズな在宅緩和ケアはありえない。地域にいる多職種の方々と信頼関係を構築し,チームとして在宅緩和ケアを実践できる能力は,在宅医にとって不可欠である。在宅緩和ケアを行っていくにあたり,多職種連携をするにはどのような障壁があり,その障壁を克服するにはどうしたらよいのだろうか。
95歳男性Aさんは2年前から訪問診療を受けている。3週間前,心不全のため入院。心不全は改善したが,経口摂取が進まない。本人は,早く自宅に帰って最期の時間を自宅で過ごしたいと話している。同居の息子さんも,最期は自宅で過ごさせてあげたいと考えている。「自宅での看取りを考えるのであれば,早めに退院するほうがよい」と家族に話す在宅医に対して,病院主治医は「経口摂取ができないなら,点滴や経管栄養なしに退院させることはできない」と説明した。
86歳女性Bさんは4カ月前に黄疸があり,地域のがんセンターにて膵癌と診断された。手術をすることはできないが,ドレナージ術を受けて状態は改善した。しかし,徐々に経口摂取が困難になってきており,外来受診時には点滴が行われるようになった。看護師は「動けなくなったり,浮腫や腹水貯留がひどくなったりすれば,在宅では無理だから必ず入院して下さいね」と話していた。本人は最期まで自宅で過ごしたいと願っていたが,家族は看護師が言うような状態になれば入院させるしかないと考えていた。一方で在宅医は,「自宅で最期まで苦しまずに生活することができます。あまり点滴などはしないほうがよいです」と説明した。
59歳女性Cさんは肝硬変末期で肝性昏睡のため,何回も入退院を繰り返していた。本人は,もう入院はしないで自宅で最期を迎えたいという希望を持っている。退院後からは,訪問診療と訪問看護,訪問介護が入っていた。退院後から徐々に肝性脳症が強くなり,腹水貯留や下腿浮腫が著明となって,動くことも困難になっている。昏睡となりほとんど意識がなくなったとき,在宅医は分岐鎖アミノ酸製剤(アミノレバン1397904493注)の投与を指示したが,点滴指示を受けた訪問看護師は,これ以上の点滴が本人のためになるのか疑問を持っていた。
93歳男性Dさんは認知症が進行してきて,徐々に経口摂取ができなくなっていた。体動も難しくなったことで寝返りをうちづらく,臀部が痛いと話している。在宅医はエアマットにすることを家族に提案し,すぐに導入するようケアマネジャーに伝えた。ケアマネジャーは福祉用具事業所や訪問看護師と相談したが,まだタイミングが早いと考え,エアマット導入を一時見送った。
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