No.4706 (2014年07月05日発行) P.16
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-03-28
このGWに台湾・台南市にある成功大学病院の緩和ケア病棟を訪問した。昨秋に成功大学の趙可式教授が来日され、リビングウィル(以下LW)の法的担保に関して意見交換を行った。今回、そのご縁で台湾の終末期医療事情を視察することになった。
台湾は飛行機で2時間半と近い。九州とほぼ同じ大きさ。台北が博多なら、台中が熊本、台南が鹿児島といったところだろうか。新幹線が台北と台南を結んでいるので西側の移動は快適だった。成功大学は実に立派なキャンパスで、校内には大きな公園もあった。そこでは昭和天皇が植えられた大きな樹が市民の憩いの場になっていた。
台湾では、2000年にLWの法的担保がなされた。「安寧緩和医療条例」という法律。日本の映画「大病人」(故・伊丹十三監督)を趙可式という一人の看護師が国会議員全員に見せて回った結果、全会一致で可決されたという。その後、2002年、2013年と2度の法律改正が行われたが、現場の様子はどうなのか。成功大学病院の緩和ケア病棟で終日過ごしたが、日本の緩和ケア病棟と大きな違いはないものの、ボランティアの活動が活発な点が目についた。緩和ケア病棟で旅立たれた方の寄付や寄贈が盛んであった。ここに来た日本人は私が初めてだと言われた。
台湾は2012年に在宅死と病院死の割合が逆転した。日本が逆転したのが1976年で、韓国では2003年に逆転している。台湾はアジア諸国の中で3番目に「病院の世紀」が到来したばかり。拙書が3冊ほど、韓国版、台湾版の翻訳本となり読まれているのは、「日本で起きることは韓国、台湾でも起きるので学んでおこう」ということらしい。とにかく日本に学ぼうという意識が強い。台湾のマスコミから取材を受けたが、「平穏死」への関心は日本のマスコミより高いと感じた。
元来、台湾では「病院では死なせない」という文化だったと聞いた。病院で死ぬと魂がそこに残るのでそれを嫌うのだという。死期が迫るとその直前に病院から家に連れて帰り、地域の長老らが中心となって自宅で看取るという。まさに「地域包括看取り」ないし「看取り搬送」ともいうべき文化なのだが、そんな台湾においてもさすがに「病院の世紀」の波が押し寄せて、一昨年病院死が在宅死を上回った。
大病院とは最期の最期まで様々な延命治療が可能な場でもある。日本と同様に管だらけになり長期間入院している人が生まれる場。状況によっては、治療を中止したほうが本人のためになるのではないかいう場合があるのだろうが、実際にはその見極めは難しい。しかし現代医学が直面するこうした状況に疑問を持った一人の看護師が、台湾の終末期医療を大きく動かしたのだ。
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