肝膿瘍(liver abscess)とは,病原体が経胆道的,経門脈的,経動脈的, 直接的に肝臓に感染し,肝組織の融解壊死によって膿瘍が形成される病態である1)。
病原体として,細菌性(化膿性)ではKlebsiella pneumoniaeが最多で,Escherichia coli,Enterobacter属,Streptococcus anginosus group,Enterococcus属,Pseudomonas aeruginosa,嫌気性菌ではBacteroides属,Fusobacterium属,Clostridium perfringensなど,そのほか多くの菌種が原因となる2)。アメーバ性ではEntamoeba histolyticaが原因となる。
発熱,腹痛,肝腫大の三主徴や,悪寒戦慄,全身倦怠感,食欲不振,悪心・嘔吐,体重減少など非特異的な感染症状を呈し,重症例や診断・治療が遅れると敗血症性ショックを呈する場合もある。アメーバ性では,下痢や時に血便を認める場合もある。
血液検査:白血球(好中球)数増加,赤沈亢進,CRP上昇,肝障害(特にALP高値)を認める2)。アメーバ性肝膿瘍は性行為感染症の側面もあり,TPHAとRPR,HIV抗体,HBs抗原の確認も必要である。
培養検査:抗菌薬投与前の血液培養は必須である。膿汁培養のほうが血液培養よりも原因菌の検出率が高く2),可能な限り膿汁培養も行う。
赤痢アメーバ検査:抗体検査は試薬製造中止に伴い行われていない。膿汁の鏡検やPCR検査で赤痢アメーバを検出する。
超音波検査:膿汁や壊死物質による不均一な低エコー域を呈する。内部に不規則な隔壁を伴うことがある。
造影CT検査:腫瘤中心部に造影効果の乏しい膿瘍腔を認め,その周囲に造影早期相でやや濃染を示す膿瘍壁と,炎症に伴う血流増加による肝実質の浮腫性変化が二重構造(double target sign)を呈する。
単純MRI検査:膿瘍内部はT1強調像で低信号,T2強調像で高信号,拡散強調像で高信号を呈する。
原則,重症感染症として入院治療の対象である。敗血症性ショックや播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC),他臓器膿瘍形成(腹腔内膿瘍,腸腰筋膿瘍,脳膿瘍,内因性眼内炎),胸腔への炎症波及から胸水貯留などを併発し,多臓器不全へ移行する可能性があるため,各種培養検査施行後,早急に治療を開始する。必要に応じて,抗凝固療法や昇圧薬を併用した集中治療を行う。
治療上の一般的注意事項として,経皮経肝膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:PTAD)を施行する際には,DICによる血小板数減少や抗血栓薬使用の有無を確認し,腹腔内出血に注意すべきである。特に膿瘍穿刺のみの場合には腹腔内出血への配慮が重要である。
画像上,転移性肝癌との鑑別が困難な場合(がんに膿瘍が混在している可能性を含め),PTADを施行する際に患者への十分な説明・同意が必要である。PTAD施行時には,麻酔薬や抗菌薬に対するアレルギー歴の確認は重要である。
肝膿瘍と診断した場合には,必ず感染経路の検索を行う。
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