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男性不妊症[私の治療]

No.5001 (2020年02月29日発行) P.45

市川智彦 (千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学教授)

登録日: 2020-03-01

最終更新日: 2020-02-26

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  • 生殖年齢の男女が妊娠を希望し,避妊をせずに性交を継続しているにもかかわらず1年経過しても妊娠が成立しない場合を不妊症と定義している。晩婚化もあり,7組に1組は不妊症であるとされている。その約半数は男性側にも何らかの原因が認められる。男性因子の多くは原因不明であるが,乏精子症の2~3割に精索静脈瘤を認める(「精索静脈瘤」の稿を参照)。勃起障害や射精障害などの性機能障害が原因になることもある(「勃起障害(ED)」の稿を参照)。

    ▶診断のポイント

    問診,外性器の診察,精液検査,超音波検査,ホルモン検査などを行う。精索静脈瘤は立位で診断する。精液量1.5mL以上,精子濃度15×106/mL以上,運動率40%以上が世界保健機関(World Health Organization:WHO)の推奨する精液所見の基準値である。精子濃度が基準値未満のものを乏精子症,精子運動率が基準値未満のものを精子無力症という。精液検査の前には2~7日の禁欲を指示するが,結果のばらつきが多いので治療前に複数回行うことが望ましい。精液中に白血球を1×106/mL以上認めるものを膿精液症という。

    男性因子の約1割は精液に精子を認めない無精子症である。無精子症と診断するには,精液を遠心しその沈渣に精子が存在しないことを確認する。無精子症には閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症があり,約1:2の割合で診断される。卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)は前者では基準値,後者では通常高値となる。

    閉塞性無精子症では,原因となる既往,精管欠損,精巣上体の硬結などが認められる。先天性両側精管欠損症では精液量の減少を認める。視床下部の異常や下垂体手術によるものなどではFSHは低値となる。黄体化ホルモン(luteinizing hormone:LH)やFSHが低値の場合は,ゴナドトロピン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone:GnRH)負荷試験やヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)負荷試験を行い,原因の部位を診断する。GnRH負荷試験でLH,FSHが上昇し,嗅覚障害を認めればKallmann症候群と診断する。非閉塞性無精子症では適切な遺伝カウンセリングの後,染色体検査やY染色体のazoospermic factor(AZF)領域の微小欠失について精査する。無精子症の約1割に性染色体の異常を認め,そのほとんどが47,XXYを呈するクラインフェルター症候群である。G-band法などによる染色体検査において異常を認めない場合でも,5~15%にAZF領域に微小欠失が認められる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    喫煙や精巣温度を上昇させる要因がある場合は,それらの生活習慣を改善することをまず指導する。原因不明の乏精子症や精子無力症では薬物療法を行う。効果が不十分の場合や早期に妊娠を希望する場合は,人工授精,体外受精,顕微授精を順次検討する。中等度以上の精索静脈瘤を認める場合は手術を検討する。精管結紮後や両側鼠径ヘルニア術後の閉塞性無精子症では顕微鏡下精管精管吻合術を検討する。精路再建の適応がない閉塞性無精子症では精巣内精子採取術を行い,回収した精子で顕微授精を行う。非閉塞性無精子症では顕微鏡下精巣内精子採取術を行い,精子が回収できれば顕微授精を行う。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症ではゴナドトロピン補充療法を行う。

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