集中治療後症候群(PICS)とは,集中治療室(ICU)在室中あるいはICU退室後,さらには退院後に生じる運動機能・認知機能・精神機能の障害で,ICU患者の長期予後のみならず患者家族の精神にも影響を及ぼす
PICSの運動機能障害は,肺機能障害,神経筋障害,全般的身体機能障害が包含され,特に重症疾患発症後の左右対称性の四肢のびまん性の筋力低下を呈する症候群をICU関連筋力低下(ICU-AW)と呼ぶ
認知機能障害は,ICU退室患者の30~80%に発症する。うつ病,不安,心的外傷後ストレス障害(PTSD)がPICSの精神機能障害を構成する要素である
集中治療室(intensive care unit:ICU)における補助循環・呼吸装置の技術革新やガイドラインによる診療レベルの向上と標準化,教育プログラムの充実により,この四半世紀で救急・集中治療医学は劇的な進化を遂げた。このためICU死亡率や28日生存率などICU患者の短期的なアウトカムは飛躍的に改善したものの,敗血症患者の長期予後や生活の質(QOL)はいまだ改善していない1)。また,約2000人の敗血症患者を対象とした2つの多国籍ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)では,ICUを退室した患者の1/3は6カ月後以内に死亡しており,残り1/3は6カ月後に何らかの機能障害が残存し日常生活動作(ADL)が障害されていた1)。このように,ICUを退室した患者の長期予後をいかに改善するかが,今後の大きな課題である。
わが国はさらに高齢化の一途をたどっている。内閣府による平成30年度版高齢社会白書によると,2017(平成29)年10月1日現在,総人口は1億2671万人で,65歳以上の高齢者人口は3515万人となり,総人口に占める割合(高齢化率)は27.7%である。高齢者人口のうち,「65~74歳人口」は1767万人で,総人口に占める割合は13.9%であり,かつ「75歳以上人口」は1748万人で,総人口に占める割合は13.8%と,後期高齢者も年々増加している2)。
高齢化と医療技術の進歩に伴い,高齢者の手術は増加傾向にあり,また内科治療の適応拡大なども相俟って集中治療を必要とする高齢者は年々増加しつつあり,成人を中心とした集中治療部では高齢者の管理が喫緊の課題となっている。さらに,わが国の死因の第3位には肺炎が位置し,これら感染症を契機とした敗血症も増加している。敗血症患者の約60%は65歳以上の高齢者であり,その死亡者数の約80%を占める3)。加齢は敗血症患者での死亡率の予後不良因子のひとつとして知られており4),わが国では敗血症患者の平均年齢が年々上昇している。