先行品との同等性/同質性を現場の医療スタッフはどう受け止めればいいのか。薬学の専門家である佐々木忠徳昭和大学統括薬剤部長は「BSはまさに『シミラリティ』『同じようなもの』であり、同一ではないというのがポイント。臨床試験で非劣性が確認され、同等の効果があることは担保されているので、私は、BSについては『先行品と同じ作用を持つ新薬』ととらえ、先行品と同じように監視しながら使えばいいと考えています」と話す。
BSの開発においては、先行品が複数の適応症を持っている場合、Aという適応症で先行品との同等性が臨床試験で確認されれば、同じ作用機序のB、Cの適応症も臨床試験なしで追加できるという、適応症の「外挿」が認められている。
インフリキシマブBSの場合も、臨床試験は関節リウマチ(RA)患者を対象とした試験のみが実施され、RAの適応症で先行品との同等性が確認されたことをもって、先行品の他の適応症であるIBD(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬の追加承認が行われている(表3)。佐々木さんは、この適応症の外挿が臨床医に理解されにくいと指摘する。
「インフリキシマブBSは、RAのみの臨床試験でIBDも許可されたため、最初のBSが承認された2014年にはIBDに関する日本人のデータがなく、そのことを問題視する臨床医も多かったと思います。少なくともIBD患者を診ている消化器内科の先生方がこぞって使うということはありませんでした」
国内での使用実績が増えるにつれ、専門医も徐々にBSを受け入れるようになり、昭和大学病院でもIBD患者へのBSの使用例が増えつつある。しかし、難病の公費負担制度があるため、使用率が大幅に伸びている状況ではないという。
佐々木さんは、国内にBSが定着するには、BSに対する医師や薬剤師など医療スタッフの習熟度の向上が不可欠と指摘する。では、一般の医師はBSについてどのように考えているのか。
2016年度厚生労働科学特別研究事業の報告書によると、医師(105人)を対象としたBS処方への意識調査では「薬の種類によってBSを積極的に処方する」(37%)、「日本での使用実績が多くなれば、BSを積極的に処方する」(21%)」という回答が比較的多く、「積極的に処方しない」という否定的な意見は10%となっている。
BSで気になる点については医師の約8割が「先行品との有効性・安全性の同等性」を挙げており、今後、国内でBSの有効性・安全性に関するエビデンスが蓄積されていけば、BSへの抵抗感は薄れていくことが予想される。
政府はいわゆる骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)に基づき、BSの研究開発・普及を推進しており、その下で厚生労働省は、医療従事者や患者・国民を対象にBSに対する正しい理解促進を図るための講習会の開催などに取り組んでいる。
BSの普及率について厚労省医政局経済課の飯村康夫ベンチャー等支援戦略室長は「薬剤の種類によって大きな差がある」と説明。難病の公費負担制度が適用されるインフリキシマブのBSなど「金銭的なインセンティブが働きにくいもの」は比較的普及が遅れているという。
実地医家の立場でBSを積極的に使用する横山さんは、難病の公費負担制度や高額療養費制度など患者の自己負担を軽減する制度を維持しながらBSをさらに普及させるためには、BSを選択した患者に何らかのメリットを付与する仕組みが必要と提案する。
「高額な薬剤が増えていく中、医療従事者も患者も、日本の医療は国民皆保険があって成り立っているということを考え、BSの使用について合理的な判断をする必要が今後出てくると思いますが、個人の選択権がある以上、患者さんへのインセンティブを含めて国のほうで何らかの仕組みを検討する必要があるのではないでしょうか」
昭和大学の佐々木さんは、BS普及のためには、メーカー側の情報提供や安定供給へのさらなる取り組みが必要と指摘。さらに個人的な希望として、先行品の70%を基本とする現行のBSの価格設定も見直す必要があるとの考えを示す。
「BSはジェネリックよりも製造工程の効率化が難しく多くの臨床試験を行っていることを考えると、価格設定はより慎重でなければなりません。しかし、医療費抑制に資するために、生産コストに見合うレベルを維持しつつ適正な薬価を考えてほしいと思います。BS普及のためには、もう少し価格を下げたほうがインパクトがあるのではないでしょうか」
厚労省は、BSについてジェネリックのように使用割合の数値目標を定めるのは時期尚早とし、当面、医療従事者・国民への理解促進の取り組みを継続する考えだ。しかし、日本の医療現場にBSを本格的に普及させるのであれば、もう一歩踏み込んだ施策も同時に検討する必要がありそうだ。