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レンヌ事件が与えた影響

No.4925 (2018年09月15日発行) P.57

麻生雅子 (北里大学病院臨床試験センター)

熊谷雄治 (北里大学病院臨床試験センターセンター長)

登録日: 2018-09-18

最終更新日: 2018-09-11

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【EMAガイドラインが改訂。NOAEL,MABELに加え,PAD,ATDの使用を推奨】

フランスのレンヌで行われていた新薬のヒトへの最初の投与を行うFIH試験で死亡例が発生した。試験薬はBIA10-2474という脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害薬であり,疼痛,不安神経症,摂食行動等への応用が期待されていた。試験計画は単回投与パート,反復投与パートなどを1つにまとめたintegrated designであり,結果に応じて変更を可能にしたものであったが,反復投与の最終投与グループの5日目に中枢性の傷害が生じ1名が死亡したものである。約10年前(2006年)のTGN1412事件は初回投与量の設定の誤りが原因であったが,今回の事件は非臨床試験データの解釈,最大投与量の設定,安易な用量漸増などが原因と考えられている。

この事件を受けEMAガイドラインの改訂がなされ,最大無毒性量(NOAEL),予想最小生物学的作用量(MABEL)に加え薬力学的作用量(PAD),予想治療用量域(ATD)の使用が推奨され,非臨床試験からより慎重に,ヒトへの影響を予測するよう提案している。また,dose escalationに際して慎重な判断が求められている。本試験ではFAAH阻害が完全かつ持続的に発現する用量の数十倍の投与を行っている。危険かつ非倫理的な計画であり,この事件は人的災害であったと考えられる。ちなみに,TGN1412は現在はるかに低い用量で開発が再開されている。問題は化合物ではなく用法にある。パラケルススの「毒性は用量にある」という至言を肝に銘じる必要がある1)

【文献】

1) 熊谷雄治, 他:臨評価. 2017;45(1):35-44.

【解説】

麻生雅子,熊谷雄治  北里大学病院臨床試験センター *センター長

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