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過労自殺:再度起きた電通事件 【多様で豊かな人生のため,個々人の状況に合わせた,真の「働き方改革」の実現が必要】

No.4836 (2016年12月31日発行) P.57

野見山哲生 (信州大学衛生学公衆衛生学教授)

登録日: 2016-12-29

最終更新日: 2016-12-19

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2016年10月,前年4月に電通に入社した女性社員が,過重労働が原因で15年12月25日に自殺し,「過労自殺」として労災認定されたことが明らかになった。

1998年,「時間外労働の限度に関する基準」で労使による時間外労働の限度等が定められ,2006年「労働安全衛生法」の改正で長時間労働者への医師の面接指導の実施が義務づけられた。過労死等の防止の対策を推進し,仕事と生活を調和させ,健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与する目的で,14年に「過労死等防止対策推進法」が施行された。その後も15年「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の閣議決定,16年10月『過労死等防止対策白書』の発刊など,過労自殺への行政の対応も徐々に進んできた。

しかし,過重労働による犠牲者は後を絶たない。電通では長時間労働は常態化し,残業時間の過少申告もあったとされている。電通は1991年の過労自殺の教訓を活かせなかった。

最長の週の残業時間が20時間以上の労働者は26.2%,平均的な1週間の残業時間が20時間以上である10%の労働者の一般健康調査票(GHQ)-12によるストレス判定は,4点以上が54.4%,「疲労の蓄積度が高い」「非常に高い」が72.5%である1)。現実は厳しく,行政による規制だけでは解決できない現実がある。今後,多様で豊かな人生のため,個々人の状況に合わせて仕事ができる真の「働き方改革」を,雇用者,労働者が一体となって実現していくことが必要とされている。

【文献】

1) 厚生労働省:平成28年版過労死等防止対策白書. 2016.

【解説】

野見山哲生 信州大学衛生学公衆衛生学教授

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