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産業医の職務と訴訟

No.4759 (2015年07月11日発行) P.54

圓藤吟史 (大阪市立大学産業医学・都市環境医学教授)

登録日: 2015-07-11

最終更新日: 2016-10-26

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産業医の訴訟リスクは低いが,産業医が賠償責任を問われた財団法人大阪市K協会事件から,産業医の職務を考える。
事件の概要は次の通りである。
自律神経失調症により休職中であった原告が,勤務先の産業医(被告)との面談時に,詰問口調で非難されるなどしたため病状が悪化し,このことによって復職時期が遅れるとともに,精神的苦痛を被ったとして,不法行為による損害賠償を求めた事案である。
裁判所の判断は,「被告は,原告に対し,薬に頼らず頑張るよう力を込めて励ましたり,原告の現在の生活を直接的な表現で否定的に評価し,その克服に向けた努力を求めたりしていたことが認められる。ところで被告は,面談に際し,主治医と同等の注意義務までは負わないものの,産業医として合理的に期待される一般的知見をふまえて,面談相手である原告の病状の概略を把握し,面談においてその病状を悪化させるような言動を差し控えるべき注意義務を負っていたものと言える」としている。
産業医が事業者の求めに応じて休職中の労働者と面談することは,職務のひとつである。面談の目的は,労働者が主治医の指導のもとで適切な療養を行っていることを確認し,復職に向けての支援を行うことである。産業医としての職務を適切に遂行していたかについては,判決文からはうかがい知ることはできない。
労働者と主治医との信頼関係のもとで成立している治療・療養や治療薬服用を否定している,と受け取られる言動を産業医が行っていたとしたら,産業医業務の逸脱と思われる。

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