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危険ドラッグ、規制強化は包括的に [お茶の水だより]

No.4711 (2014年08月09日発行) P.10

登録日: 2014-08-09

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▼法令上の規制対象ではないが大麻以上の危険性をも孕み、合法ではあるが限りなく違法に近い薬物「脱法ドラッグ」。この呼称は7月22日、危険性がより伝わりやすいように「危険ドラッグ」に改められた。
▼日本中毒学会が発表した報告書によると、危険ドラッグによる中毒症状は、精神の錯乱にとどまらず、横紋筋融解症から急性腎症まで多岐にわたる。大麻や覚醒剤とは成分が異なるため、その治療は薬物依存症を専門とする医師でも原因成分を推測して行うしかない。危険ドラッグが原因とみられる死亡者は、今年上半期だけで少なくとも24人に上っている。
▼この状況を受け、政府は危険ドラッグの規制強化に本腰を入れ始めた。厚労省は「指定薬物部会」の開催頻度を増やし、規制する成分の審査を速めている。6月に東京・池袋で8人を死傷させた容疑者が吸引した成分は、3週間後に政令で指定薬物とされた。
▼一方で、危険ドラッグ対策は成分を特定しない限り規制できないというジレンマを抱える。危険ドラッグ対策を議題に、4日に閉会中審査を行った衆院厚労委員会では、野党議員が新たな法規制を求めたが、田村憲久厚労相は審査の迅速化や立入検査の強化など現行の枠組みで対応する姿勢を崩さなかった。
▼こうした状況を打破する有効手段の1つが、「包括指定」の拡大だ。包括指定とは、類似の化学構造を持つ成分をまとめて指定薬物とする方法で、想定される組み換え例に先手で規制をかけられる。大麻に似た「ダウナー系」と呼ばれるカンナビノイド類と、覚醒剤に似た「アッパー系」と呼ばれるカチノン類は、昨年既に一部が包括指定を受けている。同様の措置を幻覚作用を持つトリプタミン類など他の成分群にも適用すべきだろう。
▼危険ドラッグ対策を違法薬物全体の乱用防止という観点から捉えることも重要だ。和田清国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長らの調査によると、危険ドラッグ使用者のうち75%が大麻、33%が覚醒剤の使用経験者であることが分かっている。使用目的の分析では、「推測の域を出ない」としながらも、男性は大麻、女性は覚醒剤に似た効果を期待した者が多いとしている。
▼危険ドラッグが違法逃れを図る他の薬物使用者の「抜け道」であることは明白だ。危険ドラッグ規制を、特定の成分のみ、危険ドラッグのみ視野に入れて進めるのではなく、大麻や覚醒剤を含めて包括的に取り締まり、入口も抜け道も同時に遮断すべきだ。

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