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【識者の眼】「空飛ぶ外科医」邉見公雄

No.5181 (2023年08月12日発行) P.65

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2023-07-24

最終更新日: 2023-07-24

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飛行歴30年、飛行時間2600時間、国内の空港はすべて制覇。パイロットやキャビンアテンダントでなくアマチュア操縦士。しかも本職はバリバリの外科医。先日お亡くなりになった赤穂市シオヤ外科の田渕禎先生の話である。

赤穂や近隣の東備西播では知られた存在だった。昭和34年、神戸大学の前身である兵庫県立医科大学卒、岡山大学外科学教室に入局。学生時代は登山部。医学部へは余り行っていないと……。赤穂の名門田渕家に入り開業、有床診療所として救急患者や手術も受け入れていた。ハイリスク・ローリターンは山男精神か。また、大変な読書家でカール・ヤスパースなどの哲学と宇宙物理は玄人はだし。議論好きも並大抵でなく、ライオンズの例会でメンバーと終始議論。最後には双方とも爆発し退席した事を漏れ聞いた(笑)。

私が所属していた赤穂市民病院で夕方から開かれる外科カンファレンスには、女子医学生のお嬢様も一緒にセミレギュラー的に参加し、癌告知すべきかどうかがまだ定まっていなかった頃で議論沸騰、日付変更線超えも……。学生実習の京大生も加わり人生論の大論争も(笑)。

飛行機乗りで愛機はセスナだったと思うが、岡山空港に駐機していた。色々な事もあった。赤穂市医師会の研修親睦旅行が南紀白浜であったとき、赤穂から新幹線等では4時間余りかかる。そこで、岡山空港へ車で来ればそこから空路ひとっとび乗せてやるから来いと。家族に相談すると丁度家内の母が来ていて猛反対された。「子供が小さいのにそんな危ない事を。急がば廻れと言うでしょ」とたしなめられた。何回も断っているうちに、瀬戸大橋開通記念で上空遊覧飛行をすると。私も家内も四国出身なのでこれは見逃せないと思った。ところが、式典10日位前に宮内庁からか県警からか、当時の皇太子殿下ご夫妻(現:上皇上皇后両陛下)がご臨席なので飛行禁止との通達。ホッとした安心と残念という気持ちが相半ばしたのを覚えている。

武勇伝的な話はちょっと怖い。沖縄へ飛行しオーシャンブルーに見惚れていたら、ガソリンがなくなりかけており、予定外に近くの空港へ不時着したとか。この話を先に聞いていたら絶対に乗らないと答えていただろう。今はもっと高い天国でも天使と一緒に飛んでいる筈である。ご冥福をお祈りいたします(合掌)。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[追悼]

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