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【「識者の眼」に対する読者の声】「紹介論文をエビデンスとするには無理がある」二木 立

No.5156 (2023年02月18日発行) P.65

二木 立 (日本福祉大学名誉教授)

登録日: 2023-02-16

最終更新日: 2023-02-16

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No.5154「“かかりつけ医機能”のエビデンスは?」
草場鉄周氏(日本プライマリ・ケア連合学会理事長)の論説に対して

草場氏が、プライマリケアの水準が医療費と負の相関があることを示した国際比較研究として紹介した論文(Starfield B, et al:Health Policy. 2002;60(3):201-18.)を読んだが、これを「エビデンス」とするのは無理がある。この論文は、日本を含む高所得13カ国を対象とし、独自に計算した「プライマリ・ケア指数」と「1人当たり医療費」(1997年)との相関図を描き、相関係数が△0.6だったため、「プライマリ・ケアが強固なほど、医療費は安い」と主張している。

しかし、わずか13カ国の横断調査に基づいて相関係数を1つだけ計算して、こう主張するのは無理がある。しかも、国別の「プライマリ・ケア指数」は、日本が中位で、フランス、ドイツはアメリカと並んで「下位」とされている(「上位」は北欧諸国やイギリス等)。ドイツ、フランスの1人当たり医療費はアメリカに次いで高く、そのために上記の負の相関が出たと思われる。しかし、その後、ドイツは2004年に「家庭医制度」を、フランスは2005年に「主治医制度」を法定化している(飛田英子:JRIレビュー. 2020;81.)。そのため、現在の両国の「プライマリ・ケア指数」が上位にランクされるのは確実である。しかし、両国の1人当たり医療費が高いのは現在も同じであるため、最新のデータで相関図を描くと、負の相関が消失しているのは間違いない。

草場氏には、私が本誌(No.5132)で紹介した、プライマリケアの拡充で医療の質は向上するが、医療費は減らない(多くの場合増加する)との最新の実証研究も読んでいただきたい。 

二木 立(日本福祉大学名誉教授)

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