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【識者の眼】「『勉強が直接仕事に役立つ』という幸せ」谷口 恭

No.5145 (2022年12月03日発行) P.62

谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)

登録日: 2022-11-24

最終更新日: 2022-11-24

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「識者」と呼ばれるには力不足だが、都心部の診療所から総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の第11回目。

あまり語られることはないが、医師という職業の醍醐味のひとつは「勉強したことが直接仕事に役立つ」ことだ。生涯にわたり勉強ができて、それを仕事にいかせるのだから我々はとても恵まれている。そして、僕がそれを強く感じるのは、僕が「再受験」、つまり一度別の大学を出て社会に出た後に医学を学んだからだろう。僕の医学部志望動機は「医師になりたい」ではなく、「医学を学びたい」で、入学当時は研究者をめざしていた。結局、断念して臨床医志望に転向するのだが。

「趣味は勉強です」と言うと、たいていは怪訝な顔をされる。世間の大半の人たちは勉強とは「強いられるもの」と思っているし、同志であるはずの医療者もあまり同意してくれない。

僕が社会人の頃、仕事に慣れてくると面白味を感じ、その仕事が社会から求められていることも理解はできた。だが、自分で決めた目標、あるいは会社から要求された目標を達成したとしても、どこかに「虚無感」が残った。

一方、医学部入学後は、一般教養科目も含めてほぼすべての講義が楽しくて仕方がなかった。僕はたいてい一番前か二番目の席に座って先生の話に夢中になった。こんなに立派な先生たちの講義をすぐ近くで聴くことができるとはなんて幸せなんだろう、と思った。有名アーティストのコンサートを最前列で観るようなものだ! と感じていたほどだ。

会社員時代、製品のPR業務をしたことがある。その製品について勉強し、どうすれば効果的にPRできるかを考えるのは楽しかった。だが、もしもライバル会社の製品のほうが優れていればそれでも続けるのか、と考えると、それ以上夢中になれなかった。

医療に飽きることはない。難易度の高い疾患の診断や治療がうまくいったときの喜びは格別だし、患者を良くするために日頃から基礎的な勉強を続け、最新の論文の検索をして読み込んでいるときには時間が経つのを忘れることもある。学ぶ内容は興味のつきない生命科学であり、生命科学を学ぶことは人間についての真実の探求に他ならない。これが仕事に役立つのだから楽しくないはずがない。

高校生の頃、誰かが言っていた。「好きなことを仕事にできる幸せな人はごくわずか。ほとんどの者にとって仕事とは生きていくために必要な手段。夢はいずれ諦めなければならない」と。高校生の頃、自分が医学部に行くなどとは微塵も思っておらず、勉強は大嫌いだった。現在は日々勉強を続けられる幸せな境遇に感謝している。

谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[趣味は勉強]

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