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【識者の眼】「災害後急性期のメンタルヘルスにおけるPsychological First Aid(PFA)の重要性について」堀 有伸

No.5139 (2022年10月22日発行) P.56

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2022-10-04

最終更新日: 2022-10-04

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繰り返し起きる災害には強い恐怖を感じます。今年の9月には台風15号による大雨で、静岡県を中心に大きな被害が生じました。6万戸を超える大規模な断水が生じ、9月28日の時点で復旧の目途が立っていないと報じられています。土砂災害で道路が寸断され、山間地では一部の集落が孤立しているそうです。一刻も早く集中的な対策が講じられてそれが奏功し、被災した方々の苦難が減ることを祈るばかりです。

メンタルヘルスの分野では、被災地では災害後にうつ病やPTSDなどの精神疾患を発症する人が増えることが知られています。現在、災害後急性期の介入法として全世界的に信頼されている方法論が存在し、Psychological First Aid(PFA)と呼ばれています。WHO版と米国のPTSD関連団体が作成した版の2つが広く参照されており、日本語版はそれぞれ、前者が国立精神・神経医療研究センターのHP1)から、後者が兵庫県こころのケアセンターのHP2)から無料でダウンロードすることができます。

その内容を見ると、いきなり精神的なことに踏み込むようなことをするのではなく、まず支援者が現地にいって状況を把握し、現実的な生活基盤の再建に協力しつつ、他の復興支援活動全体の動きと連携を取りながら、控え目に心理面についての情報提供や、必要に応じて専門機関への紹介を行うことなどが推奨されています。「まず害をなさないこと」が原則であり、支援者のスタンドプレーは戒められています。以前には災害時のトラウマ的な経験を治療的に聴取することがPTSD予防になると考えられていたのですが、現在はその見解についての否定的な証拠が提示され、実施には慎重な配慮が求められるようになりました。

PFAが成立する背景になった論文3)では、エキスパートらの見解で次の5つの条件が満たされると、災害のような状況からの回復が促進されると主張されました。それは、「安心・安全」「穏やかさ(冷静さ)」「自分と所属するコミュニティについての効力感」「つながり」「希望」です。PFAの内容は、これらが実現されることをめざして作成されています。

【文献】

1)国立精神・神経医療研究センター:心理的応急処置(Psychological First Aid:PFA).

   https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/pfa.html (Accessed September 26, 2022.)

2)兵庫県こころのケアセンター:「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引第2版」日本語版.

   https://www.j-hits.org/document/pfa_spr/page1.html (Accessed September 26, 2022.)

3)Hobfoll SE, et al:Psychiatry. 2007;70(4):283-315.

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[PTSD予防]

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