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【識者の眼】「レビー小体型認知症の診断の前に」上田 諭

No.5135 (2022年09月24日発行) P.63

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-09-01

最終更新日: 2022-09-01

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認知症の中で、認知機能障害以外に人物幻視と特発性パーキンソニズムが主症状となるレビー小体型認知症(DLB)は、ある意味特異と言える認知症である。認知症と言えば、物忘れと実行機能障害が主症状のアルツハイマー型のイメージが一般的な中、精神病症状である幻視と運動症状を呈するパーキンソニズムを伴う点は大きな特徴となる。多彩な症状を呈する認知症と言われるゆえんである。

このような疾患は、一般に診断に要注意である。それは、特徴的な症状に我々医師が目を引かれてしまうからである。物忘れの訴えに加えて、患者が「人影のようなものが見えた」と言ったり、「手が震える」「体が動きづらい」などと訴えたりしたとき、それを単純に評価すればDLB診断に傾きがちになる。しかし、幻視は認知症の有無にかかわらずせん妄でも典型的であるし、抗うつ薬の副作用でもみられる。手指振戦や筋強剛も抗認知症薬(のうちコリンエステラーゼ阻害薬)や抗精神病薬の副作用で生じることがある。これらの原因を慎重に除外しなければ、その幻視とパーキンソニズムがDLBのせいだとは言えない。

DLBには前駆症状もよく知られるようになった。Fujishiro Hらの研究(2013)によれば、DLBで記憶障害が始まる約10年前から便秘や嗅覚障害が生じる人が目立ち、約5年前からうつ症状が現れる人が2割以上いるとされる。これらは、DLB診断の際、貴重な手がかりとなるが、注意すべきことは、これらの兆候のある人すべてがDLBになるわけではない、ということである。

高齢者で普段便秘に悩む人は多い。その人たちが必ずDLBになるわけでもないように、うつ状態になったからといって、DLBになる前兆だとはもちろん言えない。うつ状態で第一に考えるべき精神科診断はうつ病であり、治療可能性が高い。一方、DLBは根治療法のない進行性疾患である。

身体不調によるせん妄なのではないか、薬剤誘発性の症状ではないか、うつ病ではないか。治療可能な疾患をまず考えるのは当然であり、DLB診断の「誘惑」には十分留意する必要がある。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[認知症医療]

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