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【識者の眼】「婚姻と家族のあり方」小倉和也

No.5127 (2022年07月30日発行) P.60

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2022-07-08

最終更新日: 2022-07-08

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法律上の性別が同じ2人の結婚が認められないことを「合憲」とする判決が大阪地裁で言い渡された。

私は法や倫理の専門家ではないが、これはすべての国民に関わる問題だと認識している。家庭医として、また在宅医療などで看取りやACPで様々な家族に関わり、そして少子高齢化などの課題を克服し、LGBTQも含めあらゆる人が支え合える地域共生社会を推進する団体の代表としての立場から、思うところを述べたいと思う。

この判決で最も問題と考えるのは、「婚姻の目的は男女が子を産み育てる関係を社会が保護することにある」とする国の主張を肯定したことだ。

世界一高齢化が進み極度の少子化に苦しむ日本は、この「保護」が最も実現されていない国であることを考えると、この文言はあまりにも虚しい。様々な形での子育てを保護し、子どもを産み育てやすい環境をつくるためにこそ、多様な家族のあり方を保護することが必要かつ有効であることは、フランスなど各国の例が示している。

確かにかつての社会では、多くの場合婚姻制度は子を産み育てることを保護する働きをしたであろう。しかし現在の社会ではむしろ、特定の形態の婚姻によってしか子を産み育てることが保護されない制度自体が、少子化の最大の要因になっているのではないだろうか。

婚姻制度や雇用、扶養に伴う税制の問題など、旧来の形で子を産み育てるか、それを諦めて仕事を優先するかを選択せねばならない現状が、家庭と仕事を共に諦めずに幸福を追求することを困難にしている。そのことで、社会全体が活性化せず現在の閉塞感につながっているように思われる。今を生きる世代とこれからを生きる世代が将来に希望を持つためには、制度が社会の変化に追いついていない現状を早急に改善する必要がある。

家族のあり方や人と人との関係を新たなつながりにあわせて保障するしくみづくりをしていかなければ、地域共生社会の構築は困難であると考える。婚姻制度もその要のひとつであり、そのあり方や必要性そのものについても見直す必要があるだろう。すべての人が生きやすい社会を支えるための様々な制度のあり方について、早急かつ活発な議論を進め、制度をアップデートすることが急務であり、それは自分達と将来の世代に対する国民の責任であると言える

【参考】

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92323

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/gaiyou/pdf/r04_gaiyou.pdf

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[婚姻制度]

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