2年半に及ぶコロナ禍ですっかり忘れられたスローガンのひとつが「地域包括ケア」ではないだろうか。命を救う医療にばかり目が行って、生活・リハビリ・食事・移動の自由など人間の尊厳がすっかり忘れられてしまった感がある。コロナの集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセス号から得られた教訓は、感染者の8割は軽症ないし無症状であり、重症化リスクは年齢であった。極言すれば、コロナは高齢者問題と相当重なるところが大きい。高齢者というと当然ながら要介護者や認知症という視点を無視できないはずだ。しかしなぜかそのような視点、つまりコロナは高齢者の問題であるという前提を忘れてしまったように感じる。オミクロン株はまだ収束していないが、そろそろ「地域包括ケア」という大切なスローガンを思い出す時ではないだろうか。
いまだに家族の面会が許されていない病院や介護施設がたくさんある。そんな状況の中、自宅に帰る高齢者が増えている。在宅患者数も在宅看取り数もコロナ禍が拍車をかけた格好になっている。療養の場を自宅に移すと、多職種によるさまざまな介入が必要となる。まずはケアマネがケア会議を招集して療養方針や人生会議を行う。オンラインで行ってもいい。
つまり医師とケアマネという医療保険と介護保険の二本立てで高齢者を支えないといけない時代になってきた。療養方針、介護サービスの利用、そして人生の最終段階の医療について「人生会議」を繰り返すことが大切である。そういえば、この「人生会議」もすっかり忘れられたスローガンのひとつである。現在、どれだけの在宅患者さんが人生会議というプロセスを踏んでいるのだろうか。