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【識者の眼】「細胞の内と外の違い」宮坂信之

No.5112 (2022年04月16日発行) P.66

宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)

登録日: 2022-03-30

最終更新日: 2022-03-30

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細胞が相互に連絡をすることで、生体の恒常性は保たれる。しかし、広い生体内で細胞が接触することは稀であり、細胞が「飛び道具」を産生するほうが効率良い。代表的な例がサイトカインである。

サイトカインとは、「鍵」のようなものである。これに対してサイトカインレセプターは「鍵穴」にたとえられる。その関係は厳密である。

関節リウマチは難病とされてきたが、関節の組織破壊に破骨細胞が関係している。破骨細胞の活性化には、炎症性サイトカインとも呼ばれるTNFα、IL-6などが知られている。これらのサイトカインの働きを抑制する生物学的製剤は「治療のパラダイムシフト」を起こす。すなわち、関節リウマチの原因はわからなくても、関節破壊形成に関与する分子を標的にし、これを制御する治療法は著効を示すことが多い。

TNFα阻害薬はメトトレキサート(MTX)との併用のほうがよく効く。TNFα阻害薬には、抗体と可溶性レセプター(オトリレセプター)がある。しかし、当初はみられていた効果が減弱することもあり、これをエスケープ現象と呼ぶ。一方、IL-6阻害薬には抗IL-6レセプター抗体が用いられる。これは必ずしもMTXとの併用は必要なく、しかもエスケープ現象が少ない。共通するのは、TNFα阻害薬もIL-6阻害薬も細胞の外側で作用する点である。

これに対して、細胞の内側で炎症性サイトカイン産生を阻害するのがヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬である。JAKは特定のサイトカインレセプターに会合する酵素である。炎症性サイトカインが結合すると、JAKのリン酸化が起こり、転写因子statのリン酸化を介してサイトカインのシグナル伝達が行われる。

このようにJAK阻害薬では、細胞の内側だけに強力に複数のサイトカインのシグナル伝達が阻害される。そのために副作用がみられることも稀ではない。その実例としては、帯状疱疹などが挙げられる。

一口にサイトカインシグナル伝達阻害と言っても、細胞の内外では違うのである。

宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[サイトカイン]

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