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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『アジア諸国のオミクロン株に対する現状と対応』」鈴木貞夫

No.5107 (2022年03月12日発行) P.55

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-03-02

最終更新日: 2022-03-02

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結果的に日本のオミクロン株感染は、2月上旬にピークを迎え、人口100万対の新規感染者数の7日移動平均で2月9日の749.6が最大値だった1)。一方、死亡については、2月末日現在では明確なピークを迎えてはおらず、1.8程度の値で推移している。今回は、欧米に比べて遅れて流行した、アジア諸国の現状について概説する。

感染が先行した欧米では、大半の国で感染の収束が堅調で、たとえばイギリスは、新規感染者数、死亡者数とも、日本と同程度の値で推移している。米国の新規感染者数はさらに少なく、日本の4割程度まで落としているが、死亡者数は日本の3倍超と依然高い。感染元であったアフリカ(南ア共和国、ナミビア)では、オミクロン株流行前のレベルまで戻している。

アジアではオミクロン株感染は比較的遅れて流入した。日本で感染爆発が始まったのは、年明け直後で、オミクロン株流行に相当する第6波は、第5波の4.0倍、波間の「凪」の最小値と比べると1051倍の感染が認められた。死亡についても、第5波の3.6倍、最小値と比べると265倍という規模であった。死亡については、今後さらに増加する可能性もある。

アジアの中で比較的早く流行し、新規感染者数200〜300程度の低いピークで乗り切ったのがインドとフィリピン、200程度でピークを迎えたのがインドネシアである。台湾はその中でも別格で、新規感染者数のピークが3程度と、文字通り桁違いの実績を示している。ただ、ここまで低い感染数は、水際対策の成果で、「国を開く」段になってかえって足かせになる可能性もある。

アジアで日本より高い新規感染者数を記録した国の中では、モンゴルは既に減少基調(最大値:2532)、マレーシアもピーク越え(879)と思われるが、シンガポール(3359)、韓国(2996)、ベトナム(776)はピークを更新中で収束の見通しが立っていない。死亡についても、現時点では、流行のタイミングが早く、高齢者の多い日本がアジアの最高値を示しているが、韓国、シンガポール、マレーシアの3国は日本より高い値に到達する可能性が高い。

シンガポール、韓国ともブースター接種率は60%超といずれも高く(日本は17%)、備えは万全と思われたが、オミクロン株については、日本を大きく上回る感染者数である。デルタ株のときと異なり、ワクチンで感染を阻止するという結果は、国別の記述データからは読み取れない。〈3月2日〉

【文献】

1)Our World in Data「country profiles」.

   https://ourworldindata。org/coronavirus#coronavirus-country-profiles

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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