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【識者の眼】「わが国における人工妊娠中絶薬の承認申請」重見大介

No.5106 (2022年03月05日発行) P.62

重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)

登録日: 2022-02-17

最終更新日: 2022-02-17

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2021年12月22日、英製薬会社ラインファーマが、人工妊娠中絶を目的とした経口薬(飲み薬)について、厚生労働省に製造販売の承認申請を行った1)。これは、日本にとって非常に大きな一歩であると考えている。

人工妊娠中絶は、意図していなかった妊娠において、その妊娠を中断することを目的として行う処置である。世界保健機関(WHO)は2015〜19年の間、世界では年間平均7330万件の人工妊娠中絶が毎年行われていると報告している2)。わが国ではおおよそ1日に400件の人工妊娠中絶が行われており、その数は未だ少ないとは言えない3)

持続可能な開発目標(sustainable development goals:SDGs)では、「目標3. すべての人に健康と福祉を」「目標5. ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられており、これらの達成のために必要なのがセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(sexual reproductive health and rights:SRHR)といわれる「性と生殖に関する健康と権利」である。中絶後のケアを含む、安全な中絶へアクセスできることは「権利」とされている4)5)

WHOは2003年に「安全な中絶」を世界中で実施するための指針を発表しており、そこには推奨される具体的な人工妊娠中絶の方法が掲載されている。妊娠の早い段階では「薬剤での中絶」や「手術(吸引法)」が推奨されているが、わが国では「薬剤での中絶」は現時点では認可されていない6)

今回申請される薬剤での中絶は、妊娠継続に必要なホルモンを抑える「ミフェプリストン200mg」を内服して約2日後(36〜48時間後)に、子宮を収縮させる「ミソプロストール800
μg」を内服する。世界では70カ国以上で承認されている中絶方法であり、米国では中絶処置の中で薬剤が全体の約4割、英国では約7割を占めている7)8)

わが国で120人を対象に行われた臨床試験では、93%が「ミソプロストール」を服用してから24時間以内に中絶を完了した。なお、軽い症状も含めると38%の患者に副作用を認めたと報告されている。

「より安全な中絶」の選択肢が増えるのは喜ばしいことだ。もちろんこの薬の「悪用」はあってほしくないが、このときに比較されるべきは「悪用が一件もない社会」ではなく、「この薬が承認薬として使えない社会」であろう。多くの女性にメリットをもたらす薬はきちんと承認された上で、運用や提供体制によって悪用を可能な限り防ぐ仕組みをつくることが重要だと考える。

【文献】

1)ラインファーマ株式会社ウェブサイト.

2)Bearak J, et al:Lancet Glob Health. 2020;8(9):e1152-61.

3)厚生労働省:令和2年度の人工妊娠中絶数の状況について.

4)外務省:SDGsとは?.

5)Starrs AM, et al:Lancet. 2018;391(10140):2642-92.

6)WHO. Abortion.

   https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/abortion

7)Induced Abortion in the United States.

8)Abortion statistics, England and Wales:2019-GOV. UK.

重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[性と生殖に関する健康と権利

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