株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「医科歯科融合で新型コロナウイルス感染症の解明を目指せ!」槻木恵一

No.5090 (2021年11月13日発行) P.55

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2021-11-02

最終更新日: 2021-11-02

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスは、鼻腔や肺に感染することはよく知られている。しかし口腔も、細菌やウイルスの入り口であり、感染症と関連が深い。2020年8月、筆者らにより口腔粘膜上皮細胞はACE2とTMPRSS2を共発現していることを見出し、新型コロナウイルスが感染する可能性を指摘した1)。2021年3月には、Huangらにより口腔上皮細胞内にS蛋白の存在やウイルスの複製まで証明され、口腔は新型コロナウイルス感染のフォーカスであると同時にリザーバーであることが明らかになった2)

一方、口腔は、感染に対して無防備ではない。IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、ペルオキシダーゼ、スタセリンなど多数の抗菌・抗ウイルス活性をもつ成分を唾液中に認める。特に、粘膜免疫の実行抗体であるIgAは、感染防御において最上位の位置にある。興味深いことに新型コロナウイルス非感染者の唾液に、新型コロナウイルスに対する交叉IgAを保持する人が約50%存在し、このIgAに中和能を認めている。いわゆる新型コロナウイルスに対する交叉防御が、口腔に存在するのである。インフルエンザに対しても同様の報告があり、唾液中のIgAは、侵入抗原に対してバラエティーに富むレパートリーを持っており、きわめて機能性が高い。

今後、「新型コロナウイルス感染—口腔防御機構」の相互関係の解明は、粘膜ワクチン開発の基盤となるので、口腔を焦点に集学的な研究が必要であるが、その進展は非常に遅れている。

口腔や唾液は、歯科医師の得意とする領域だが、実は日本の歯学部においてウイルス学を専門としている研究者は皆無であり、口腔領域におけるウイルス学的な研究はウイークポイントとなっている。一方で、医師は、口腔より鼻や肺のほうに馴染みが深く、口腔が抜け落ちやすいのではないだろうか。このバラバラ感が研究の進展を阻害しているのではと危惧している。

唾液は、新型コロナウイルス感染症のPCR検査で注目されたが、一方で防御因子の宝庫であり、研究対象として見過ごすことはできない存在である。新型コロナウイルスの登場は、医科でも「口」の再考という提案を投げかけてはいないだろうか。歯科にも新たな課題を突き付けられている。

11月28日は、今年から「いい唾液(ツバ)の日」に登録され、唾液研究振興への願いも込められて制定された。感染症とともに歩まねばならないニューノーマル時代に、医科歯科融合による唾液研究の新しい幕が開くことを期待している。

【文献】

1)Sakaguchi W, et al:Int J Mol Sci. 2020;21(17):6000.

2)Huang N, et al:Nat Med. 2021;27(5):892-903.

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top