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【識者の眼】「誕生季節は食物アレルギーの発症だけでなく難治化にも関与の可能性」楠 隆

No.5074 (2021年07月24日発行) P.57

楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)

登録日: 2021-07-07

最終更新日: 2021-07-07

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食物アレルギー発症の危険因子として、「家族歴」「皮膚バリア機能低下」「環境中の食物アレルゲン」「離乳食開始の遅れ」などが知られていますが、一般にはあまり知られていないもう一つの危険因子として「秋冬生まれ」があります。我々もかつて京都市で行った大規模調査の解析で、秋冬生まれの子どもは乳児期に食物アレルギーを発症しやすいことを報告しました1)。その機序として、①生後間もなくの時期を日照時間の短い季節に過ごすことで起こるビタミンDの低下が免疫機能の成熟に影響を与えて、アレルギーが発症しやすくなる可能性、②皮膚が乾燥することで皮膚バリア機能が低下し食物抗原の経皮感作につながる可能性、などが指摘されています2)

ところで、食物アレルギーのうち、鶏卵、牛乳、小麦のアレルギーは乳児期早期に発症するものの免疫寛容が誘導されて自然寛解する可能性も高く、小学校入学までには7〜8割の子どもは自然に食べられるようになることがわかっています。それでは、残り2〜3割の子どもの食物アレルギー難治化に関与する危険因子にはどんなものがあるでしょうか。我々は小中学校に通う一般の学童約5000人を対象にした大規模調査を行い、鶏卵アレルギーについて難治化の危険因子を解析しました。その結果、鶏卵アレルギーを発症した子どものうち、「乳幼児期の湿疹」「他の食物アレルギーの合併」に加えて、ここでも「秋生まれ」が独立した有意な危険因子であることを見出しました3)。まだ予備段階の結果であり今後の検証が必要ですが、乳児期のビタミンD不足や皮膚乾燥が免疫系に与える影響の一つである可能性があり、免疫寛容誘導の機序解明に示唆を与えるものとして今後の研究の発展が期待されます。

【文献】

1)Kusunoki T , et al:Pediatr Int. 2013;55:7-10.

2)Matsui T, et al:Allergol Int. 2019;68:172-7.

3)Motoyama Y , et al: Allergol Int. 2021;S1323-8930(21)00060-5.

楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[食物アレルギー]

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