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【識者の眼】「早期緩和ケアの行き詰まり」西 智弘

No.5066 (2021年05月29日発行) P.62

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2021-05-13

最終更新日: 2021-05-13

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2010年に「早期からの緩和ケア」がQOLを改善する、もしかしたら寿命も延長するかもしれない、という画期的な研究結果が報告されてから10年。世界各国では、がんなどの重大な疾患に罹患した患者に対し、なるべく早期から緩和ケアが関われるように体制を整えてきた。

一方で、日本ではどうだろう。確かに、国内においてもがん対策基本方針をもとに「(がんの)診断時からの緩和ケア」が推奨され、日本緩和医療学会を中心に「緩和ケアがあることを知り、苦痛があれば我慢せずに緩和ケアを受けましょう」と啓発を続けてきた。しかし先日、あるSNSで患者会の方々が「会員からの相談を受けていても、みんな『緩和ケアがどういうもので、それが大切である』ということは知っている。でも、いざ緩和ケアの専門機関につながりたいと希望すると『緩和ケアを受けるにはまだ早い』などと言われてしまう。緩和ケアを知らないのではなく、どうつながればいいかがわからない」と発言されたことが話題となり、サバイバーや家族の方などから緩和ケアに対する不満が噴出した。

現実として、国や学会としては「早期からの緩和ケア」を推奨し続けているにも関わらず、国内の緩和ケア専門機関では、他院で抗がん剤治療中の患者が通院できる緩和ケア外来を設置していない場合も多い。病院によっては、自院の患者に対しても緩和ケア外来を設置していない場合もある。これでは到底、「早期からの緩和ケア」を実践できる体制になっているとはいえない。

もちろん、「主治医として診療してくれる緩和ケア医」を明日からすぐにでも全国に配備せよ、というのは難しい。緩和ケア専門医も十分な数がいるとは言い難いためだ。しかしせめて、外来緩和ケアコンサルテーションやアウトリーチ機能、また看護師が中心となって行う早期緩和ケア体制など、各地域において専門家ができることは多くあるはずだ。また、その体制づくりのためには治療医側の協力も欠かせない。お互いが支え合い、患者・家族にとってベストな地域緩和ケア体制を作っていけるよう、早急にシステムを作っていく必要がある。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[地域緩和ケア体制]

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