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【識者の眼】「自賠責保険慰謝料等の妥当性」相原忠彦

No.5030 (2020年09月19日発行) P.63

相原忠彦 (愛媛県医師会常任理事)

登録日: 2020-09-09

最終更新日: 2020-09-09

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損害保険会社のマーケット規模の55%が車に関する保険であり、他の保険に比べて最も大きい。2020年4月1日施行の民法改正で、法定利率が従来の年5%から年3%に変更された。それに伴い自動車損害賠償責任(自賠責)保険の通院慰謝料金額が100円値上げになり、1日あたり4300円になった。交通事故治療の患者の通院慰謝料は1日あたり4300円×治療期間または実治療日数×2の金額の少ない方となる。

自賠責保険は人身事故に対する治療等の補償が目的である。被害者への治療費の支払は意外に少なく支払額の48%で、約半分である。死亡、後遺障害及び精神的・肉体的な苦痛に対する補償である慰謝料が4割、休業損害は残りの1割となっている。

受傷の程度(傷害度)別にみると、軽度の傷害(傷害度1)が84.1%を占めており、大半が軽度の損傷であるといえる。傷害度の重軽にかかわらず、通院慰謝料は1日4300円が支払われるので、軽症患者の通院慰謝料目的の通院が問題となる。医療機関の平均治療期間は68.8日、治療実日数は19.2日で、治療期間別の件数構成比をみても、30日以内が46.7%と最も多い。

接骨院(整骨院)の平均施術期間は103.6日、施術実日数は47.7日で、施術期間別の件数構成比をみると、91〜120日が21.0%と最も多い。接骨院には手術等の重症患者以外の軽症患者が施術を受けているわけで、本来は医療機関より少ない期間であるのが当然と思われる。しかし、医療機関の治療期間と大きく乖離している理由には、慰安的施術や日数による通院慰謝料が大きく関与していると推察する。近年、弁護士特約のある保険も増え、後遺障害を含む示談の際に通院実績が乏しいのは不利であると主張する弁護士も多い。患者の症状は様々ではあるが、傷害度が軽度の場合と重度の場合の通院慰謝料が同一である必要性があるのだろうか?

自賠責保険には、「ノーロス・ノープロフィットの原則」があり、その保険料率は「能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内でできる限り低いものでなければならない」と法令で規定されており、利潤や損失が生じないように算出する必要がある。

相原忠彦(愛媛県医師会常任理事)[通院慰謝料]

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