株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「類似薬効方式による高額再生医療製品償還価格算定の問題点」坂巻弘之

No.5019 (2020年07月04日発行) P.62

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2020-06-17

最終更新日: 2020-06-17

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

5月20日、米国で高額な薬価が話題であった遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」がわが国で保険適用となり、償還価格は1患者あたり1億6707万7222円となった。この価格は、2017年8月30日に薬価収載された「スピンラザ」を比較薬として類似薬効比較方式により計算され、有用性加算Ⅰ(加算率50%)と先駆け審査指定制度加算(同10%)とが上乗せされている。

一方、2020年度薬価制度改革において導入された著しく高額な再生医療等製品に対する加算の傾斜配分ルールは、市場規模が小さいことで傾斜配分の対象とはならなかった(ピーク時投与患者数25人、売上42億円)。承認審査に時間を要したことで、先駆け加算適用については問題とする指摘があったが、今回の算定には他にも注目するべき点がある。

わが国初の遺伝子治療薬は「コラテジェン」であり、2019年9月10日に保険収載されている。その価格は、原価計算方式で1バイアル60万360円であったことからも、ゾルゲンスマがいかに高額であるかがわかる。比較薬のスピンラザは作用メカニズムが全く異なる核酸医薬品であって、本品について原価計算方式での算定も可能であったはずであるが、企業が原価の議論を避けたのではないかと憶測することもできる。

スピンラザは原価計算方式で薬価算定されており、1バイアル932万424円(当時)、製品総原価は688万3400円(対薬価74%、市場規模は294人、97億円)であった。スピンラザは、核酸医薬品という新しい治療技術(モダリティ)ではあるが、製造原価を考えると高額すぎではないだろうか。やはり5月20日に収載された国産初の核酸医薬品である「ビルテプソ」も原価算定方式で算定され、その薬価は9万1136円、製品総原価は5万8299円(対薬価64%、市場規模は128人、54億円)である。製品総原価には、研究開発費も含んでおり、投資額や固定費の市場規模に対する配賦の考え方によって異なるが、そもそもスピンラザが高額すぎたとも考えられる。

海外開発製品の製造原価については、海外からの移転価格などをベースに計算されていると推察され、算定価格の透明性や合理性についても疑念がもたれる。そうした製品の薬価を比較対照として算定される著しく高額な医療技術の価格算定のあり方については、今後さらなる議論が必要である。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top