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【Breakthrough 医薬品研究開発の舞台裏(5)廣田直美(武田薬品工業 日本開発センター所長)】ワールドクラスのR&D組織を構築、外部ベンチャーとの連携も強化

No.4979 (2019年09月28日発行) P.14

登録日: 2019-09-26

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アイルランド製薬大手シャイアー社の買収を2019年1月に完了させ、「研究開発型バイオ医薬品のグローバルリーディングカンパニー」として大きく生まれ変わった武田薬品工業。その動向への医療関係者の注目度は高く、本誌読者アンケート(2019年3月)でも「シャイアー買収でメガファーマとなったから」「海外企業と統合し、iPS細胞の研究にも関与している」などの理由で武田薬品に注目しているという声が多く寄せられた。日本国内の戦略だけでなくグローバル戦略の立案も担う武田薬品の国内開発部門「日本開発センター」は、どのような体制で革新的な医薬品・治療法の開発を進めているのか。廣田直美所長に話を聞いた。


ひろた なおよし:1985年京大大学院薬学研究科博士課程修了。バクスター薬制本部長、サノフィ薬事薬制本部長、武田薬品工業薬事部長などを経て2018年4月より現職。薬学博士。

─武田薬品の研究開発はどのような基本戦略で進められているのでしょうか。

廣田 患者さんに革新的な治療薬・治療法をお届けするため、ワールドクラスのR&D(研究開発)組織を構築しイノベーションを推進する、というのが武田の基本戦略です。注力すべき疾患領域を絞り、リソースの集中化を進めていますが、シャイアー社を買収したことで従来の「がん領域」「消化器系疾患領域」「ニューロサイエンス(神経精神疾患)領域」に加え、「希少疾患領域」も重点疾患領域となり、ワクチンに加え血漿分画製剤に研究開発投資が行われることとなりました。
武田・シャイヤー統合後の研究開発パイプラインにある新規候補化合物の約半数は希少疾患であり、スペシャルティケアのファーマへと大きく変化していることを実感しています。

シャイアー買収で患者がより身近に

─国内の研究開発体制は現在、どうなっていますか。

廣田 国内の開発部門は大阪に集約されています。武田薬品において日本は1つのリージョン(地域)であり、日本というリージョンでの開発を日本開発センターが統括するという体制です。

─湘南の研究所はどう位置づけられているのですか。

廣田 武田湘南(R&D)は、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)に位置するリサーチの拠点で、ニューロサイエンスを中心に創薬ターゲットの探索や候補化合物の選定に取り組んでいます。湘南とはリサーチの初期段階から綿密な連携をとっており、今年4月に先駆け審査指定制度の対象品目に指定されたナルコレプシー治療薬「TAK-925」は、湘南と我々の連携が実った1つの成果です。
最近の新薬の多くはベンチャー企業から創出されていることを踏まえ、湘南アイパークに企業・大学を積極的に誘致し、ソースを問わず良い薬を開発するという方針の下、外部ベンチャーとの連携も強めています。

─シャイアーとの統合で研究開発体制が変わった部分はありますか。

廣田 基本的には武田のシステムにシャイアーが組み込まれたという格好ですが、お互いベストプラクティスを目指す中で影響は受けています。日々感じるのは、希少疾患の患者さんの声がよく聞こえるようになったことです。これまで以上に患者さんを身近に感じることができ、我々の励みになっています。

苦労が多かった「エンタイビオ」の開発

─国内の研究開発パイプライン(表)の中で特に有望と考えているものをご紹介いただけますか。

廣田 昨年、潰瘍性大腸炎の効能・効果で承認・発売された製品ですが、消化管に選択的に作用するモノクローナル抗体製剤「エンタイビオ」はまず有望な新薬として挙げられます。これについてはライフサイクルマネジメントの開発を続けており、今年5月にはクローン病の効能追加も承認されました。皮下投与製剤の剤型追加の開発も進められ、潰瘍性大腸炎が承認申請(8月)、クローン病がフェーズ3の段階にあります。
「エンタイビオ」は、2008年に買収したミレニアム社が創製した製品です。買収時点で海外での治験はすでに進んでいたため、日本での開発は武田が独自に行うことになったのですが、上部消化管の医薬品開発には強い武田も下部消化管の領域についてはノウハウがなく、治験の規模も大きかっただけに、当時の担当者はかなり苦労したようです。
がん領域で将来的に有望なものとしては新しいCAR-T細胞療法があります。他社ですでに承認されているCAR-T細胞療法は血液腫瘍に対して有効性が示されていますが、我々が湘南アイパークのベンチャー企業と協力して開発を進めようとしている製品は固形腫瘍への効果が期待されています。この開発に成功すれば、世界規模のブレークスルーになると考えています。

「最速最善」の医薬品開発を追求

─廣田さんが長年にわたり研究開発に取り組む中で大事にされてきたことは何ですか。

廣田 いつも頭にあるのは「最速最善」という言葉です。将棋の米長邦雄先生が昔、プロの定義について語る中で「40手先に詰みがあるかもしれないとき、そうしなくてもじっくり打てば勝てるという状況でも、最速最善で40手で詰むことを追求するのがプロだ」という話をされていて、なるほどと思いました。
我々も研究開発のプロならば常に最速最善を目指さなければいけない。医薬品の開発は真っ直ぐにはいかず、時に停滞し後ろに戻ることもありますが、心構えとして個人個人が最速最善を目指せば、組織として最速最善で患者さんに医薬品を提供できる、という話はよくします。実際には難しいんですけどね(笑)。

─臨床試験情報への患者・家族のアクセス拡大を目指して、8月末に武田薬品国内ウェブサイトに「臨床試験情報公開ページ」が新設されました。研究開発においてもペイシェント・ファーストの考えを徹底していくということでしょうか。

廣田 そうですね。以前は「患者さんのために薬をつくる」という発想でしたが、いまは「患者さんとともに薬をつくっていこう」というのが基本姿勢です。
患者さんのヘルスリテラシーが上昇し、特にがん領域の患者さんの情報量・知識量は圧倒的です。患者さん1人1人のご意見が臨床試験の計画などに役立つということが実際に起こっています。研究段階から患者さん、患者団体の声に耳を傾ける取り組みを今後も進めていきたいと思っています。

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