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【シリーズ・製薬企業はどう変わろうとしているのか─各社のキーパーソンに聞く(5)〈MSD〉】「すべては患者さんのために」臨床的に価値のある情報を正確に提供したい

No.4922 (2018年08月25日発行) P.14

登録日: 2018-08-23

最終更新日: 2018-08-23

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政府が進める薬価制度の抜本改革に基づく薬価抑制政策などの影響で、製薬企業は創薬や情報提供といった事業戦略の大幅な変革を迫られている。過渡期を迎えた製薬企業の針路を探る本 シリーズの第5回は、免疫チェックポイント阻害剤「キイトルーダ」やC型肝炎治療薬「エレルサ」「グラジナ」が牽引役となり、2017年の売上高前年比15%増という大きな伸びを見せたMSDのヤニー・ウェストハイゼン社長にインタビューし、情報活動を通じた医療関係者とのコミュニケーションのあり方やイノベーションの行方について話を聞いた。

―MSDは「キイトルーダ」の適応拡大で乳がんや大腸がんといった8つの臨床試験がフェーズⅢまで進むなど有力なパイプラインが揃っており、適正使用を促す情報活動がますます重要になっていると思います。医師の“MR(医薬情報提供者)離れ”が指摘される中、どのように医師との関係性を構築していますか。

ウェストハイゼン MRの役割が引き続き重要であることに変わりはありません。ただ、明確になっているのは、医師の方々がさまざまなソースから医薬品に関する情報を収集しているということです。製薬企業としては、医師とMRの価値ある関係性を維持しつつ、ほかのツールやチャネルを活用していく必要があると考えています。
また医師の間では、データの解釈を巡るより専門的なディスカッションのニーズが高まっているので、メディカルアフェアーズ(MA)の役割も重要になってきています。しかし、日本のMRは新薬の上市において安全性情報の収集に携わるなど、とても重要な役割を担っています。そうした環境の変化に対応できるよう、座学だけでなく、分からない部分があれば何度でもタイムリーに勉強できるオンライン講習を取り入れるなど、MAに準じた専門性や迅速性を身につけさせるという観点からMRへのトレーニングを強化しています。

―本誌が行ったアンケートによると、医師の一定数は製薬企業の情報提供について「有効性に偏っている」との印象を持っているようです。こうした声をどう受け止めますか。

ウェストハイゼン MSDでは「サイエンスと医療の最前線に立つヘルスケア企業へ。すべては、患者さんのために」という企業ビジョンを掲げています。患者さんが最善の治療を受けるためには、医療関係者が医薬品の安全性と有効性について、正確な“真実”の情報を得る必要があります。MAは臨床試験やPMS(市販後調査)、リアルワールドデータなどに基づいた客観的な情報を正確に提供するため、バイアスのかかっていない情報活動という観点でも大きな役割を担うことになると考えています。
またMSDには多くのメディカルドクターが社員として在籍しています。アカデミアの世界で活躍していたり、臨床経験が豊富だったりと幅広い人材を揃えています。医師としての彼らの視点を活かし、臨床的に価値のある情報提供を行っていきたいと考えています。

キイトルーダは750以上の臨床研究を実施

―キイトルーダの適応拡大など研究開発への投資を積極的に行っている印象ですが、一連の薬価制度改革がイノベーションに与える影響をどう考えますか。

ウェストハイゼン 国民皆保険制度の持続可能性を高めるためには、すべてのステークホルダーがある程度の痛みを受け入れなければなりません。一方で、イノベーションを生み出すためには経営予見性の担保が重要です。今般の見直しでは新薬創出等加算の要件が厳格化されました。加算対象となるかどうかの見通しが立たなければ、研究開発に再投資していく原資を確保することが難しくなります。日本市場に画期的な新薬が投入されるタイミングが遅れるということになりかねないと危惧しています。

―現場の医師も同様の懸念を持っているようです。

ウェストハイゼン 現行の薬価制度にはほかにも課題があり、キイトルーダのような新しいタイプの薬剤には対応できていません。
キイトルーダは単剤でも30以上のがん腫について750以上の臨床試験を進めています。例えばDPP-4阻害薬のような医薬品は、上市した段階で治験が終わっているという状態が一般的です。その後売上の伸びが大きければ市場拡大再算定が適用されることもありますが、営業やマーケティング以外で巨額のコストがかかることは考えにくい。しかし、がんの適応拡大を申請するには臨床研究が必要で、新薬開発と同じようなコストがかかるにもかかわらず、適応が追加されればされるほど薬価引下げの圧力を受けてしまうのです。これだけ多くのがんに効果がある薬剤を従来の一製品と同じように扱うのは無理があります。グローバルな課題でもありますが、こうしたイノベーションが登場した場合には、迅速に制度を対応させていく必要があると思います。

―免疫チェックポイント阻害剤の可能性については、国民同様に多くの医師も注目しています。

ウェストハイゼン 我々もサイエンスの発展を見守っています。キイトルーダがどの患者さんに効くのか、どの薬剤との併用療法ならより効果があるのか、といった形で研究に取り組んでいます。
すべての固形がんに効果があるかどうかは分かりませんが、単剤で効かなかった場合でも併用療法ですばらしい成果が出たこともあり、サイエンスに導かれながらイノベーションを追求しているところです。

科学的エビデンスに基づいたワクチンの議論を

―依然としてHPVワクチンの積極的接種勧奨が再開されていないように、日本ではワクチンの是非を巡る議論が起こりやすい傾向があります。医師が接種対象の女児や家族から問い合わせを受けたとき、リスクや効果についてどのように説明すればよいのでしょうか。

ウェストハイゼン ワクチンもほかの医薬品と同じように、科学的なエビデンスを出発点、また終着点として議論するべきではないでしょうか。特にHPVワクチンは、国内外で安全性・有効性のエビデンスが蓄積されてきているので、医師の方にはそのエビデンスをしっかり理解していただき、科学に基づいて分かりやすく児童や保護者に話していただけたらと思います。
HPVワクチンを接種した場合としなかった場合のリスクを両面から考えていくことが大切になりますが、HPVワクチンが子宮頸がん予防に有効であるというデータが次々と報告されています。おのずとワクチンを打ったほうがよい、という結論になると思います。
厚生労働省のサイトや、最近では日本産科婦人科学会をはじめさまざまな学会が、子宮頸がんやHPVワクチンについて情報を発信していますので、そちらも参照していただければと思います。ワクチンはHPVに限らず、通常の医薬品と異なり健康体の方が対象になるため、一般の方々が理解し納得することが必要です。今なぜこのワクチンを接種する必要があるのか、科学的なエビデンスに基づいた疾患啓発に社会全体で取り組むことが大切なのだと思います。

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