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磁気共鳴画像学

MRIをきちんと勉強したいと願う医師・研究者に!

定価:9,020円
(本体8,200円+税)

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著: 中田 力(新潟大学教授)
著: 松澤 等(新潟大学准教授)
著: 鈴木清隆(新潟大学准教授)
判型: B5判
頁数: 288頁
装丁: 単色
発行日: 2012年07月01日
ISBN: 978-4-7849-4199-5
版数: 第1版
付録: -

物理工学と医学双方の専門家がMRIの本質をときほぐした「骨太」入門書です。「装置を使うだけの研究者」から「仕組みがわかった上で使いこなせる研究者」への変身を手助けする貴重な一冊となるでしょう。理論と実践を究めた執筆陣によりまとめ上げられた本書は、クリアで過不足のない記述に貫かれており、磁気共鳴画像学の神髄に触れようとする読者には最適です。

目次

1章 MR formalism
1-1 基本数学
Dirac表記
エルミート演算子(Hermitian Operator)
正規直交基底(Orthonormal Bases)
固有ベクトル(Eigenvector)と固有値(Eingenvalue)
物理現象におけるテンソル
1-2 量子力学における公準
1-3 1/2スピン系での応用
測定可能な演算子の平均値
観測可能なスピン
1/2スピン粒子の発展
平均値の発展
磁気モーメントの平均値
密度演算子と密度行列 参考文献

2章 磁気共鳴の物理学
2-1 磁気モーメントの二つの定義
2-2 磁気モーメントに働く力
2-3 スピンの発見
2-4 巨視的角運動量
2-5 スピンの大きさと単位
2-6 軸性ベクトルと極性ベクトル
2-7 磁子とg因子
2-8 スピンの仮想実験
2-9 量子力学の処方箋と自由粒子への応用
2-10 波動関数の確率解釈と基準系
2-11 共役関係と交換関係
2-12 軌道角運動量演算子と球面調和関数
2-13 回転演算子との同等性
2-14 波動関数からDirac表記へ
2-15 時空とスピノル
2-16 スピンの表現
2-17 回転と2価性
2-18 ポテンシャルと歳差運動
2-19 回転磁場の作用
2-20 密度行列とコヒーレンス
2-21 スピン結合と多量子コヒーレンス 参考文献

3章 撮像シーケンス
3-1 緩和時間と画像コントラスト
相関時間 correlation timeについて
3-2 各種撮像シーケンスの分類
Spin Echo系
Gradient Echo系
(1)横磁化のspoiling
(2)SSFP
(3)balanced sequenceについて
3-3  Navigator echoとPROPELLER
motion artifactの補償の原理
motion artifact type Ⅰ、type Ⅱ
(1)“type Ⅰ artifact” ─ 並進運動の場合
(2)“type Ⅰ artifact”  ─ 回転運動の場合
(3)“type Ⅱ artifact” ─ 並進運動の場合
(4)“type Ⅱ artifact” ─ 回転運動の場合
navigator echoの動き補正
PROPELLERの動き補正
3-4 磁化率強調画像
磁化率(magnetic susceptibility)について
画像処理プロセス
フィルタリング
phase wraparoundの除去
位相マスク
3-5 拡散イメージング
拡散現象
「真の」拡散と「みかけの」拡散
等方拡散(isotropic diffusion)と不等方拡散(anisotropic diffusion)
拡散テンソル
一次元のADC計測
不変量の計測
三次元不等方性コントラスト
固有値、固有ベクトルの算出
eigenvector imagingと3DAC
eigenvalue imagingとLambda chart
(1)Diffusion Characteristic Function
(2)Lambda chartの実例
(3)Lambda chart(脳梗塞例)と固有値画像
Probabilistic tractographyについて
(1)deterministicな方法論からの脱却
(2)作用素族の次元拡張と球面調和関数
(3)ベイズ統計とMarkov Chain Monte-Carlo法
(4)Probabilistic tractographyの臨床例
(5)burn-inの効果 参考文献

4章 MR装置の電磁気学
4-1 phaserによる表示
4-2 phaser表記を用いたインピーダンス表現
4-3 ラプラス変換を用いたインピーダンス表現
4-4 集中定数回路と分布定数回路
4-5 同軸ケーブル
4-6 分布定数回路としての同軸ケーブル
4-7 波動方程式 二階線形偏微分方程式の分類について
4-8 真空中のMaxwell方程式
4-9 導体中のMaxwell方程式
4-10 skin-effect(表皮効果)
表皮効果(skin effect)について(その1)
表皮効果(skin effect)について(その2)
4-11 定在波とSWRについて
定在波について
SWR(Standing Wave Ratio)について
4-12 インピーダンス平面とスミスチャート
4-13 Sパラメーターと散乱行列
4-14 T/Rスイッチについて
(1)λ/4ケーブル
(2)クロスダイオード
送信時
受信時
4-15 代表的RFコイルについて
ソレノイド型コイル
Butterfly coil
Saddle coil
Bird cage coil
Phased array coilについて
Phased array coilの画像再構成
コイルのSNR(signal to noise ratio)
4-16 B1mapping
4-17 Ernst角について
4-18 プローブコイルについて
4-19 コイルのQ値
4-20 Radiation Damping(放射減衰) 附表1 参考文献

5章 流体力学とflow imaging
5-1 流体力学
Navier-Stokes方程式
連続の式
定常流とReynolds数
Reynolds数
慣性力と粘性力
力学的相似と数値シミュレーション
Knudsen数(平均自由行程/系の長さ)
Prandtl数(動粘性係数/温度伝導率)
Mach数
Froude数
Weber数
層流と乱流
層流の速度分布
Hagen-Poiseulle(ハーゲン-ポアズイユ)の式
層流から乱流への遷移
拍動流とWomersley数
Wormersley数と拍動パターンの変化
流 線
流線の方程式
流線関数と渦度
rotについて
Stuart渦列について
Newton流体と非Newton流体
Newton流体とshear stress
非Newton流体
dilatant流体
擬塑性流体
Bingham流体
5-2 Flow imaging
Time-of-flight effect
inflow effect
Phase-shift effect
Phase-shiftと傾斜磁場
二相性傾斜磁場
三相性傾斜磁場
一般化
velocity compensationとacceleration compensation
5-3 生体情報としての流れ
血管構築の描出
Time-of-flight angiography
Phase-contrast angiography
projection angiography
画質改善のための工夫
phase dispersionの抑制
saturationの抑制
magnetization transfer contrast MTC
流速の定量
direct bolus tracking
pre-saturation
Fourier velocity imaging
shear stressのin-vivo測定 参考文献

6章 MRIデータ処理の幾何学的理解
6-1 画像再構成の新しい問題
逆空間としてのk空間
フーリエ基底と内積
次元の拡張
非直交基底と逐次法
6-2 fMRIデータ解析の二つの方法
Statistical Parametric Mapping
一般線形モデルと基底
パラメータ推定と線形独立
検定量によるマッピング
独立成分分析を用いたデータ駆動型解析
分散と直交基底
独立性と非直交性
ブラインド信号分離
非ガウス性と非線形性
情報理論的アルゴリズム
高次統計学的アルゴリズム
ノイズと情報
情報抽出と詳細解析
参考文献

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序文

€私が磁気共鳴画像(MRI)に関わることになったのは、1978年のことである。Californiaに渡って間もないころ、BossからUC BerkeleyのSinger教授を紹介された。改めて言うまでもなく、やがてMRAとして臨床を席捲することになる「流れの核磁気共鳴学」の創始者である。私が臨床医であることを知ったSinger教授は、Lauterbur教授のZeugmatographyを勉強しろと勧めてくれた。それが、Budinger教授の主催していたDonner laboratoryで、PETだけでなくMRIの研究をも始めるきっかけとなった。

もともと画像学をやろうと考えたのは井上多門先生との出会いによる。東大にEMIの最初のCTが導入された縁で、東芝の研究所を主宰されていた工学部の先輩である井上先生から、画像物理学の手解きを受けたのである。1996年、日本に研究室を移すことを決めた私のSan Franciscoの自宅に、当時、筑波大学で物理を教えていらした井上教授から「筑波大学で物理の教授を兼任してくれ」とのお電話を頂いたことは、筑波大学教授会の反対で実現はしなかったものの、私の人生最大の誇りである。

€CaliforniaのBossが医者であると同時に、MITでMathematics/Physicsのdouble majorをこなした数理物理学者であったように、私も物理工学出身である。Californiaでほとんど同時にMRIに手を染めた古い友人Bill Bradleyも、医者である前にCaltech出身の物理工学者であった。また、Bruce Rosenに代表される第二世代の研究者たちも、皆、医学と物理学との両方を修めている。

€ところが日本では、なぜだかわからないが、物理学を習得していない医師や研究者がMRIの技術指導をしていることが多い。不思議なことだが、MRIの教科書の物理工学的な記載ですら、専門家ではない臨床医によるものが圧倒的に多い。fMRIの普及で、装置を使うだけの研究者が激増した現代でも、日本以外の先進国にはみられない現象である。それがこの本を書くきっかけとなった。物理工学と医学の両方に、正式に携わった者による磁気共鳴画像学の本である。画像学をきちんと勉強したいと願う日本の若き医師・研究者のための入門書である。

平成24年6月€

中田 力
新潟大学脳研究所・統合脳機能研究センター

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レビュー

【書評】MR画像の原理から応用までを完全に網羅

寳金清博 氏(北海道大学大学院医学研究科脳神経外科教授)
おそらく、本書の書評を上から目線で書くことのできる評論家は存在しないように思われる。各界の天才─数学のゲーデル、物理学のアインシュタイン、論理学のヴィトゲンシュタイン、医学のウィルヒョウなどなど─に依頼しても、おそらく部分的な称賛にとどまるのではないかと思う。強いて言えば、デスニル・ビアン、マイケル・モーズリーなどの言わば現代のMR画像の基礎と臨床応用の境界で活躍した天才だけかもしれない。

それだけの深さを持った本書を、臨床の一脳外科医である私が評論することは、身の程知らずもはなはだしいと言わざるをえない。とは言え、本書が中田 力先生を筆頭とする3名の日本人の手によって著されたことに、一時著者らの仕事の一隅を照らす光栄を得た私としては、心から賛辞を贈るものである。

本書には、今後MR画像の新しい境地を切り開くために現在考えられるすべての知識が、原理から応用まで完全に、かつ系統的に整理されている。基礎知識のある人では第3章の撮像シーケンスから進むことも可能である。また、一見すると初学者には敷居を高くして、pedanticな記載をしているように思われるが、よく読むと著者らが実に親切に分かりやすく、言い方を換えると、あえて正確な記載よりも理解を促すことに重点を置いた編集方針が全体を貫いていることに気がつく。

例えば、140頁からのprobabilistic tracto-graphyなどは短く書かれているが、本来ならここだけでも100頁くらいの記述が必要なパートであるように思われる。しかし、実によく要点を整理して書かれており、読者の理解を助けてくれている。こうした著者らの細かい配慮が至る所にちりばめられている。

やや大げさになるが、本書が日本から日本語で出版されたことの意義は、後世、日本の医学画像学にとって大きな意味を持つような気がする。今後の画像学を支える次世代の日本の先生方には、本書は必携の書である。

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