著者: | 島田宏之(日本大学医学部眼科教授) |
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著者: | 中静裕之(日本大学医学部眼科診療教授) |
判型: | B5判 |
頁数: | 112頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2018年02月26日 |
ISBN: | 978-4-7849-6236-5 |
版数: | 第2版 |
付録: | - |
●使用薬剤の具体的作製方法を追加し,データ,写真もアップデート!
●術後眼内炎発症ゼロの手法を伝授します。
●術後眼内炎は重篤な手術合併症であり、適切な治療を行っても最終視力は不良です。そのため医療訴訟の点からも対策が望まれています。
●簡便かつ安価に行え、多剤耐性菌にも有効で、耐性菌誘発の心配もない感染予防法〜治療法まで解説しています。
●「これまでに白内障手術、硝子体手術などに本法を用いてきましたが、眼内炎発症はなく、角膜障害などの眼合併症もありません」(著者談)
0.25%ポビドンヨードで眼手術の際に術野を繰り返し洗浄することで「術野を一時的に無菌化」させる方法をどのような経緯で考案したのか質問されることがたびたびあります。
1990年代,白内障手術終了時の前房水からは数%,20ゲージ(G)硝子体手術終了時の硝子体液からも数%の細菌が検出されることが報告されていました。2004年,筆者らは20Gから25G硝子体手術にシステムを変更し低侵襲手術を目指すことにしました。20G硝子体手術に比べて,25G硝子体手術では強膜創が小さくなっていることから,術中の細菌侵入は抑制されていると筆者らは考えていました。2005年に臨床研究を行ってみると,手術終了時の硝子体細菌検出率は20G硝子体手術で1.2%,25G硝子体手術で2.3%と,有意差はなかったものの,25G硝子体手術のほうで高値であることに驚かされました。この理由として,カニューラを使っても眼外で器具が結膜や術野と接触することは避けられないこと,創口が小さく眼内灌流量が少ないため眼内に入った細菌が排出されにくい可能性があることを考えました。
2007年,Kunimotoらは術後眼内炎の発生率は20G硝子体手術0.02%に対して25G硝子体手術0.23%と有意に高い(P=0.004)ことを報告し,世界中の硝子体術者を震撼させました。また,2010年,Tominagaらは20G硝子体手術にくらべて25G硝子体手術では,トロカール刺入の際に結膜常在細菌が眼内に迷入しやすいことを報告しました。これらの結果,25G硝子体手術は眼内炎のリスクのある術式として考えられ,敬遠されるようになりました。
このため筆者らは,トロカール刺入時の結膜常在細菌の硝子体迷入を防ぐ方法について研究を始めました。1991年のSpeakerらの研究で,眼内炎の起炎菌の由来は結膜常在細菌であることが分子生物学的に示されていました。2002年のCiullaらの研究では,白内障手術後眼内炎の予防として術前のポビドンヨード洗浄の重要性が認識されていました。そこで筆者らは25G硝子体手術の際に1.25%ポビドンヨードを眼表面に塗布した状態でトロカール刺入を行う方法を行ってみることにしました。その結果,トロカール刺入の際の細菌迷入を0%にできましたが,術中は灌流液で眼表面を洗浄していたため,手術終了時には0.6%に細菌が検出されました。その時「思い切って硝子体手術の際にポビドンヨードで洗浄し続けたらどうですか」というアドバイスがありました。そこで眼表面を洗浄できるポビドンヨードの濃度を調べたところ,0.05〜0.5%ポビドンヨードは殺菌効果が高く,眼表面への毒性も少ないことがわかりました。特に,ポビドンヨードの殺菌効果は0.1%で最も高いこともわかりました。そこで0.05〜0.5%の中央値である0.25%ポビドンヨードを用いて眼表面を洗浄する方法を考案したのです。
2011年に眼表面を0.25%ポビドンヨードで洗浄しながら白内障手術を行う方法の有用性と安全性について報告したところ,大変反響がありました。その後,2013年は硝子体手術と硝子体内注射,2014年にバックリング手術を報告するに至ったのがこれまでの経緯です。
2018年2月 島田宏之