PCSK9は機能獲得型変異家系からFHの原因遺伝子として同定された。一方,PCSK9機能欠失型変異患者では低LDLコレステロール血症,心血管イベントの頻度が低いことが示され,薬剤標的として適切であると考えられ,抗体医薬や核酸医薬などの分子標的薬が開発されている
PCSK9を標的とした抗体医薬は,スタチンなどを服用中のFH患者や高LDLコレステロール血症患者に対して,LDLコレステロール値をさらに低下させる効果があることから,日本でも一部,承認・上市されている
アポリポ蛋白Bを標的として開発された核酸医薬であるmipomersenは,FHホモ接合体を対象として開発され,米国において承認されている
スタチンはコレステロール合成を阻害することにより,LDL受容体活性を上昇させ,血清LDLコレステロール値を低下させる薬剤である。最初のスタチンであるコンパクチンは,1970年代に遠藤らにより開発され,Yamamotoら1)によりfirst in man studyが行われた。天然物や生物学的修飾による化合物を中心にした初期のスタチンから,さらに強力な化学合成によるストロングスタチンが登場し,数多くの大規模臨床試験により,LDLコレステロール低下治療が虚血性心疾患の予防に有効であることが明らかになり,世界の公衆衛生に大きなインパクトを与えてきた。また,わが国のような虚血性心疾患の発症頻度が低い地域においても,その予防効果は証明された2)。
スタチンにより大きな恩恵を受けた疾患として,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)が挙げられる。FHは,高LDLコレステロール血症,皮膚および腱黄色腫,若年より発症する動脈硬化症による冠動脈疾患を特徴とする。FHは治療が開始されるまでに長期間高LDLコレステロール血症に曝露されていることが多く,冠動脈疾患発症や再発の予防には,的確な診断と厳格なLDLコレステロールのコントロールが要求される。ストロングスタチンの登場により,FHにおいてもLDLコレステロール値を有意に低下させることが可能になった。筆者らはFHヘテロ接合体329例の長期間の治療記録から,冠動脈疾患を発症した101名について検討し,その時期や年齢についてのスタチン使用開始の影響を解析した3)。スタチンの使用により,冠動脈疾患の発症は男女ともに有意に高年齢になり,喫煙や肥満度,高血圧,併用薬剤などのほかの影響因子を標準化した後にも有意差は残存した。スタチンによるFHのLDLコレステロール低下効果については,FHの治療目標がLDLコレステロール値100mg/dL未満であることを考慮すると,不十分であると考えられた。LDLアフェレシス治療による効果は報告されているが,時間的・身体的負担が大きく,新たなタイプの薬剤の開発が喫緊の課題である4)。
このような状況下で,近年,抗体医薬や核酸医薬などの分子標的薬の研究開発が進み,高コレステロール血症の治療分野においても良好な結果が出つつある。本稿では,高コレステロール血症をターゲットにし,臨床応用化の進んでいる抗体医薬および核酸医薬について,最新の情報をまとめるとともに,抗PCSK9アンチセンスの研究開発で筆者らの得てきた知見について論じる。
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